7章-19 力の代償
「勇者様、起きて下さい!」
ローズの声が聞こえた。
(あれ?俺はローズとランスを迎えに行くところだったはずだが。)
重い瞼を開けるとそこは教会であった。と言っても棺に入っていた訳ではなく、床の上に転がっていた。体を起こすと体中に激痛が走る。
「!?痛てて…!!」
体中に包帯が巻かれていたが血に滲んでいた。そんな俺が体を起こしたのを見てランスが飛びついて来た。
「お兄ちゃん、心配したんだから!」
ランスが抱きついた腕に思いっきり力を入れて来る。あちこちに傷があるのかもの凄く痛い!
「ちょっ、もう少し加減してくれ!!」
ランスも力を入れ過ぎたのに気付いたようで、俺から離れた。そんなに目を腫らして、鼻水くらいは拭けよ、お嫁にいけない顔してるぞ。
「勇者様、その背中の刻印は?」
ローズは俺の背中を指さす。心配されるだろうし出来れば隠しておきたかったが、見られたものは仕方ない。
「俺もおまえらと一緒に前線で戦うぞ。これはその決意の証だ。」
できれば格好よく決めたかったが、体中を走る激痛でその場に蹲ってしまった。いつも格好付かないなあ。ランスが何か言いたそうにこっちを見ている。瞬間、刻印をいれた時に見た光景が頭をよぎる。体にこの刻印を入れ対応できずに死んでいった子供達。そしてその一人であっただろうランスの姿。
「大丈夫だ、俺は死なないよ。」
ランスの頭を撫でてやる。その言葉を聞いて安心したのかランスはまた俺に抱きついて来た。この刻印を持っていた少年の意思なのか、死んでもこの子は守らなくてはと思っていたが、ランスを安心させるために死なないと約束してしまった。これで俺はもう死ねないな。
「そういえば、俺は何で教会に居るんだ?確か闇市で倒れたはずなんだが…。」
闇市でチンピラに絡まれ、それを倒した記憶はあるがここまで歩いて来た記憶は全く無い。
「赤ニートさんが運んで来てくれたんですよ。」
赤ニート?どこかで聞いた名前だ。そして俺は忘れていたものを思い出す。俺に翡翠の短剣を寄越した赤ニート。俺を嵌め殺した赤ニート。何だか思い出しただけで腹が立って来た。
「あいつは何処に居るんだ?」
「え?まだ近くに居られるかと。」
体中の痛みを堪えて立ち上がる。折角この力を手に入れたんだ、一回くらいやり返してやる。俺は速足で教会から出ようとした。
「あれを追いかけるのはやめておきなさい。」
教会の入り口に立っていたのは銀髪の少女だった。
「たしかパンツが丸見えだった娘か。」
「もっと覚え方があるでしょう!!」
彼女に襟首を掴まれた。思っていた以上に力があるようで俺の体が持ち上げられてしまう。
「暴力反対!!落ち着いてくれ!!」
少女は思いっきり俺の顔を殴ろうとしていたが、やめてくれた。そしてそのまま降ろされる。
「まあ、いいわ。そして私は忠告したからね。どうあっても『英雄』には勝てないのよ。」
あんな体中ボロボロでニートと呼ばれている男が『英雄』?どう考えてもそうは思えない。
「あんな英雄が居て堪るか、ないない。」
俺の反応に少女は冷たい視線を送ってきた。だが、このままここでグズグズしていたら赤ニートに逃げられてしまう。俺はローズに教えてもらった方向に向かって走った。




