ブレークタイム1 エンマ様はハンバーグがお好き
エンマ大王は屋敷の中庭に居た。椅子に座りながらテーブルの上のコーヒーを手に取る。
「このコーヒーちょっと苦いわね。ちょっとミイラ聞いてる?」
ミイラと呼ばれた顔中包帯まみれの長身の執事が屋敷から出てきた。右手にはハンバーグの乗った皿、左手にはサラダボールを持っている。
「コーヒーは苦いのが当たり前だろ?そこにシュガースティックがあるからそれを入れろ。」
「それでは遠慮なく。」
そう言ってエンマ大王の隣に座っていたメイドはコーヒーに砂糖を入れる。余程甘党なのか三本は入れただろうか。
「何です?」
黒い砂糖水と化した液体を飲みながらメイドはミイラの方を見る。
「ユリ、おまえもメイドなら運ぶのを手伝―、いや何でもない。」
「運ぶのなら手伝いますよ?」
「おまえ、昨日の夕食ダメにしたのを忘れたのか。」
ミイラはテーブルの上に皿を並べながら言った。
「あれは事故です!持ってたお皿で足元の石が見えなくて。」
ユリは立ち上がって昨日の夕食の件について言い訳を始める。
「まさか夕食にサンドウィッチを食べる羽目になるとは思わなかったわ、本当だったらステーキだったのに。」
エンマ大王はコーヒーに砂糖を入れながら言った。こっちも二本くらい入れている。
「お嬢様、その件についてはすみませんでした!」
「石があったなら仕方ないよな。」
ユリが何度も頭を下げているのが不憫だったのかユリと向かい合った席に座っていた金髪の作業着の男が横槍を入れる。先程まで誰も居なかった席だ。
「キン、あなたはいつもユリに甘いわね。」
エンマ大王はキンに向かって言った。
「おまえのミイラ贔屓よりはマシだよ。」
キンはコーヒーを不味そうに飲みながら言った。
「そう?贔屓なんてしてないけれど?」
「いいから飯を食え、せっかく作ったのに冷める。」
ミイラがライスの盛った皿を並べながら言った。
「今日の昼食は私の大好きなハンバーグなのね、ミイラ愛してるわ。」
そう言ってエンマ大王はミイラに近づく。そして、皿を並べて姿勢が低い状態のミイラの頬にキスをする。
「…あとサラダにトマトが入っていなければ良かったのだけれど。」
「残すなよ。」
ミイラはエンマ大王のキスに動じることなく「ちゃんと野菜も食え」と注意する。
「おかわり頂けますか?」
ユリがライスの皿をミイラに差し出す。
「おまえ何杯目だよ。」
ミイラはそう言いながら皿を受け取り屋敷にライスを盛りに行く。
「そういえば今日スネークさんが購買の方に来ましたよ。」
ユリが思い出したように言った。
「ああ、また薬草の件ね。彼が全部買い占めたのに店に並んでないって文句言うのも可笑しい話よね。」
エンマ大王はココアを飲みながら言う。まだコーヒーを飲むには早かったようだ。
「今度会ったら自分で取りに行けって言ってもらえる?あと働けって。」
「でも今森にはドラゴンが住んでるって聞きましたよ?」
ユリもココアを飲みながら言った。結局コーヒーをまともに飲めたのはキンだけだ。
「傷とか病気を薬草で癒そうって考えるのはどの生き物も共通なのね。」
エンマ大王は感心しながら頷く。それを見てユリも笑う。
「さて、昼食も終わったし仕事に戻るわね。」
エンマ大王はそう言うと席を立って屋敷に戻って行った。
「今日の夕食は何かしら?」