7章-17 力の代償
そう、魔法の刻印とは『物語』である。その『印』を身に付け共に歩いた『英雄』達の軌跡。おまえがその『印』を受け入れることは、その『英雄』達の歩いた道を受け入れることと同等なのだ。だからおまえは今から見る全ての光景をその網膜に焼き付けなければならない。
一人の青年がどこかの屋敷の一室の中に立っていた。辺りには首の無い遺体が無数転がっている。その金髪の頭や黄金の鎧は返り血を浴び、そしてその手にはその父の首がーー。青年が瞳孔を開きながら叫んでいる。
「俺は遂にやった!これであいつは解放されるんだ!!」
青年は執拗にその首を必要にテーブルの角に叩きつける。整っていたその顔は原型を留めておらず、無様に辺りにーーをぶちまける。
「今行くぞーー!!おまえを今から解放しに行ってやる!!」
青年は血に濡れた剣と不死鳥の印の入ったマントを手に取り戦場に向かった。そうーーを解放するためにである。そのためになら、なんだってぶち壊し、なんだってぶち殺してやる!
体に刻印を入れたら10人程が吐血して死んだ。そのあと頭を抱えてそのまま動かなくなったのが10人程。当たり前だ、あのような光景を見せられて狂わないはずがない。だが、それを乗り越える者も当然いる。黒髪の少年はその一人であった。何とかその場で起き上がると少年は倒れている一人の少女のもとに走り寄る。
「ランス―!!おい生きてるんだろ!?」
少年の声は部屋中に響き渡るが、少女は目を閉じたままである。少年は涙を拭い、立ち上がる。生き残ったきょうだい達と戦場に向かうのである。
「親父は俺らが守ってやるから、おまえらはもう寝てろ。安らかに。」
少年は火を放ち、その亡骸達を焼き尽くす。そうだ、俺達はこれから騎士になるんだ、この先何が起ころうとも守って見せる。
燃え盛る戦場に一人の影があった。その青年は息絶えた女性を抱えている。敵兵はその眼光を見るなり後ろを向いて全速力で逃げだす。頭上に大量の剣が現れたからだ。そしてその剣達は物理法則に乗っ取って落下し、敵兵を貫く。それを避けた者は青年の後ろの大砲によって原型を留めず木端微塵になった。これを地獄と呼ばずして他に何と呼べばよいのだろうか。
「まるで地獄の大地のようだ。」
周りには剣に貫かれ、煤になった者で埋め尽くされていた。
俺は目の前に広がる光景から目を背けたかった。だが、目を閉じても、手で覆ってもその光景が広がる。まるで直接網膜に焼き付けられているらしい、目の奥が熱くて熱くて耐えきれない。
「ランスはこんな思いをしていたというのか!?」
そして背中に焼き付く痛み、いや焼き付くというより、中から貫かれたような痛みが続く。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い。
俺はこのどうしようもない熱から何度も失神しかけたが、その度痛みで正気に戻される。いや、これを正気と呼んでいいのか。こんな光景を目の前にして正気を保っていられるのか。この光景が無限ループするが、背中の痛みのせいで気絶することも許されない。そんな光景がずっと続いたあとである。やっと網膜から熱が引き、目の前が真っ暗になった。そして目の前にはこのまえ三途の川で見かけた少女、いや生前の妹が立っていた。
『行っちゃうの?』
「ああ。」
妹が俺に問いかける。俺は即答した。もうローズやランスと戦うと決心したからだ。
「それじゃな、俺はもう行くよ。」
俺は妹に背を向け走り出す。もう『生前の記憶』は捨てるとそう決めていたのに、何故だろう、涙が止まんないや。だが、俺は振り返らず走り続けた。すると、目の前が急に明るくなった。
――勇者よ、よく耐えた。どうやらおまえには適性があったらしい。さあ、その『不死鳥の羽』で暴れて来るがよい。そして、その戦いも記録され、語り継がれるだろう――




