2章-3 勇者
赤ニートと別れてから5分くらい通り沿いに歩いただろうか、ボロイ住宅街に着いた。建物の所々にヒビが見える。
「ここは?」
「私達移民の住宅街ですよ。まあちょっと古いかもしれませんけど暮らす分には不自由はしてません。」
ローズは苦笑いしながら言った。また表情に出てしまったようだ。
(すぐ表情に出る、この癖は直さないとな。)
「勇者様、こっちです。」
ローズが手招きする。案内されるままに歩くとバラの鉢植えが飾ってある部屋の前に着いた。そういや女の子の家とか来るのは初めてだな。少しドキドキする。
「勇者様?」
ローズがこちらの顔を覗き込む。先程から感じてはいたが女の子特有のいい匂いがする。
「いや、なにもない!」
ローズは少し不思議そうにこちらを見たあとそのまま扉を開ける。
「お母さん今帰ったよ。」
ローズに連れられてそのまま部屋に入る。台所、テーブルとベットが2つだけと簡素なつくりである。そしてそのベットの上で横になっているのが一人。
「お帰りローズ。」
ベッドの上で身を起こしたのは背中程の長髪をしたエルフであった。金色の長髪、尖った耳でこれぞエルフといった見た目である。
「それで、そちらの方は?」
ローズの母がこちらを見る。透き通るような青色の目をしている。
「勇者様だよ、薬草を取りに行ってくれるって。」
「勇者ねえ。」
ローズの母が少し疑った目で見ていたが、俺の手に持っていた剣を見ると納得したような表情をする。
「翡翠の短剣とは、あなたはどうやら魔法と剣術両方が扱えるらしい。本当に勇者なのかと疑ってしまったが、その剣を見るにあなたは本当に勇者みたいだ。疑った無礼を許して欲しい。」
ローズの母はそう言って謝罪する。いや、騙しているのはこっちなんですけどね。
「私は普段村の警護をしているのだが、そのときに言い寄ってくる自称勇者の多いこと。まあ、全員剣で追っ払ったんだが。」
なるほど村でナンパされるとはエルフも大変らしい。あと普段剣を振るっているとはこのエルフは女騎士属性もあるのかと感心しながら自分の未来を心配する。
(勇者じゃないってのがバレると絶対許してくれないよなー。)
「勇者様、母は数日前から高熱が出ていて薬草が必要なんです。それでエンマ大王様の屋敷の購買部を覘いてみたところ丁度品切れのようで、次の入荷が一か月先のようで。」
一か月先ねえ、それはきついだろうなあ。ローズの母は今見ても苦しそうに肩で息をしている。
「医者に見てもらったところ猶予はあと一週間だそうだ。そこであなたに薬草を持って来て欲しい。」
ローズの母が説明を続けた。
「それでその薬草の場所なんですがー。」
ローズが言いにくそうにこちらを見る。
「どこにあるんだ、急いで取りに行こう。」
まあ薬草を取ってくるだけだ、そんなに難しくはないだろう。俺はその考えは甘かったとあとで痛感することになる。