7章-8 力の代償
俺は走った。多分今日が地獄に来て以来一番走った日の気がする。
「さっきの俺の感動を返せよ!少しでもあんたのことを格好いいと感じた俺が馬鹿みたいだ!技名まで叫んで恥ずかしくないのかよ!?」
俺は前を走っているおっさんに罵声を浴びせる。
「うるせーな、俺も少し後悔してるところだぞ!女衆に格好いいところを見せようと思ったらこれだ!全部昼間に俺を射たキクノが悪いんだぞ!?恨むならあいつを恨んでくれ!」
一人称が「おっさん」から「俺」に変わっているあたり、どうやらブレーメンもかなり切羽詰まっているらしい。
「俺をどうこう言っている勇者様はどうなんだよ!?何かいいものは持っていないのか!?」
そう言われても、持っているのは短剣とボウガンくらいである。この程度の装備で怒り狂ったミノタウロスを止められるものか!あいつらは罪人何十人と固まってやって倒せる程の化け物だ、身体能力も一般人レベルで魔力も持たない俺一人でどうにかできるものではない。
「そうだ、翡翠の短剣持ってただろう!?あれで斬ればいいじゃないか!」
「おまえ、俺に死ねと言うのか!?」
翡翠の短剣は魔力を込めることで刀身が伸びる武器である。しかしながら魔力を持たない俺は生命力を注ぐことで刀身を伸ばしている。必然的にこの武器を振っているだけで俺は死ぬ。
「もうこれ以上死にたくないんだよ!これ以上何かを忘れるのは嫌だ!」
俺達「罪人」は死んでも教会で蘇生されるパシリである。しかし蘇生される度に記憶を失っていく。今日失った記憶を薄っすらながら思い出したというのにそう易々と捨てられるものか!
「おまえ、馬鹿言ってる場合か!?このままじゃ結局死ぬんだぞ!?」
分かってはいるが俺はなかなか決心がつかなかった。こうしている間に俺達と追って来るミノタウロスの距離は縮んでいくばかりだ。
「っ!?」
そんな時にである。足に激痛が走る。そうである、足がつってしまったのだ!俺は生前大学生であったが、浪人時代と学生時代であまり運動をせずにいた。そんな体で今日一日どれだけ走っただろう、足がつるのは必然であった。
「運動系サークルに入っておくんだったー!!」
俺は盛大に転倒する。そして後ろを振り返るとミノタウロスが斧を振りかぶって突進して来ている。俺はもう死んだなと思った時である。ミノタウロスの斧は振り下ろされことはなかった。斧を持っていた腕が吹っ飛んだからである。ミノタウロスの悲鳴に目を開けた俺は俺とミノタウロスの間に一つの影が立っているのを確認した。低い身長に檻の前でブレーメンが切り刻んだミノタウロスの得物を持っている。返り血を浴び、血に染まった少女はランスであった。




