7章-7 力の代償
日が沈んだ後だった。村の外れで俺はブレーメンに麦やら牧草やら詰め込まれた籠を背負わされる。
「これでよしと。そんじゃ頼むわ。」
そう言うとブレーメンは近くの木の枝に飛び乗る。俺は意味が分からなかった。ローズ、ローズの母、ランスはまとまって物陰に隠れ、村人達も家の中に籠っている。
「おい、何だ?これは。」
「分からないか?おまえが囮になってここまで連れて来るんだよ。そうしたらこの紐切り落として檻に閉じ込めっから。」
ブレーメンは近くの紐を指さす。そこには金属製の大きな檻がぶら下げてあった。
「はあ!?囮!?おまえは俺に死ねと言うのか!?」
「おっさんがやっても獲物がビビッて寄って来ないからな。それとも何だ、坊主はこんな危険な役割を女性衆にやらせるのか?」
ブレーメンにしては珍しくまともな発言である。確かにローズやローズの母、村の人達は死んでしまったら蘇生することもできないし、まだ小さいランスにやらせるのも心苦しい。その点、俺は蘇生が効く罪人であるから適任と言う訳だ。だからと言って命を投げ捨てるのも嫌だが。
「なーに、坊主が上手く誘導すれば済む話じゃない。」
おっさんは他人事のようだった。だが他に頼むわけにはいかないので結局俺がやるしかない。
「そろそろ来るんじゃないか?村の畑の中を巡回して来い。」
ブレーメンが俺を急かす。こっちは命を懸けるんだ、心の準備くらいさせてほしいものだが。
俺は村の畑まで移動した。するとそこには大きな影が3つ。どうやら麦畑を荒らしている最中らしい。それは大きな角に筋肉隆々の体、大きな斧。ミノタウロスであった。
「はあ!?何でこんな所にミノタウロスが!?」
俺の声を聞いてミノタウロスは一斉にこちらを向く。そして俺の背負っている餌に目が行った。じゅるりと唾を飲む音がした。ヤバい、殺られる。俺は全速力でブレーメンに指示された方向に走る。足音がどんどん近づいて来る、少しずつ距離を詰められているらしい。俺はただ無心にひたすら走った。あと十歩、あと九歩…!そして、ようやく指示された地点に到着した。後ろを見るとミノタウロス達は俺の背負っている餌に目が行っていて罠には気付いていないようだった。
「よし!よくやった!」
ブレーメンが檻を切り落とした。しかし、3体のうち2体は物音に気付き後ろに飛んだ。ガシャーンと大きな音がして1体が檻の中に閉じ込められる。
「複数体居るのは誤算だったが、2体くらいなら相手できるぜ。」
ブレーメンが麦わら帽を抑えながら木から飛び降りて来た。そして、腰の剣に手を掛ける。直後、ブレーメンに向かって風が吹く。いや違う、ブレーメンが風を纏っている!
「天界風仙流剣技、『無双風刃』!!」
何だか漫画のように技名を叫び、ブレーメンが剣を抜き、剣を振るう。その刃は風を纏い、剣の振りは音速を超えていた。複数の風の刃がミノタウロスに飛んで行き、1体を輪切りにした。そしてそのまま残りの1体をと思った時である。ブレーメンの振るっていた剣が砕け散った。当然風は止み、辺りは静かになった。さっきまで斧を盾にして死を覚悟していたであろうミノタウロスも呆然としていた。
「ああ、そういえば昼にキクノの矢を受けてたのを忘れてたわ。許してちょんまげ☆」
ブレーメンはてへぺろと言わんばかりの表情である。そしてミノタウロスは仲間の仇と言わんばかりに激怒してこっちに向かって走って来た。ああ、一瞬でも格好いいと思った俺が馬鹿であった。




