7章-3 力の代償
村の畑に向かって走っている麦わら帽のおっさんの速いこと速いこと。さっきまでヘラヘラしていた緩いおっさんがギターを背負いながら腕と脚を大きく上げて走っている光景はなかなかにシュールであったが、こっちが全速力で走ってもなかなか追いつけない。どうやらブレーメンが騎士であるというのは本当で、体も鍛えられているらしい。時々俺の方を見て「追い抜いてみろ」と言わんばかりの笑みを向けて来るが、俺とブレーメンとの距離は縮むことは無く、むしろ開いていく一方だ。このままではうちのパーティの華であるローズが危ない!そしてレースの会場は闇市から娯楽街に移る。
俺は人混みの中を掻き分けて走っているのに対し、ブレーメンは漫画に出て来るキャラクターのように出店の屋根部分を飛び移って進んでいる。ダメだ、身体能力が違い過ぎる!こうなってしまっては距離がどんどん開いていくばかりである。
「女一人口説くのに必死じゃないですかね!?」
「何を言っているんだ坊主。女を口説くために必死なんだよ。」
よっ、と次の出店の屋根に飛び移ろうとするブレーメン。そんなブレーメンの体が後方に吹き飛ぶ。何が起こったか分からなかったが、前の方向から歓声があがった。歓声のした方向を見ると、大きな木製の弓を持った女性が立っていた。美しく輝く黒い長髪、着崩したような男性の和服のような格好の長身の女性である。
「誰かうちの市場で走り回っていると聞いて来てみたが、あんたかい、ブレーメン。」
娯楽街の女主人であるキクノだった。キクノはいつも笑っているのだが、今は機嫌が悪いのか鋭い目付きである。
「ここ地獄の騎士であろうが何だろうが、うちの市場を荒らすようなら容赦しないよ。次はその頭を射貫くからね。」
ブレーメンが落下した場所にはもうヤツの姿は無く、もうこの娯楽街から撤退し道を変えたようだった。
「勇者様、今日は本当によく合うねえ。」
キクノが周囲の歓声を無視し立ち止まっている俺に寄って来た。さっきの騒動なんて無かったかのような爽やかさである。声を掛けられて、俺は村の畑に向かって走っていたことを思い出した。
「ごめんな、キクノ。今は急いでるんだ。」
「あら、そうかい。それじゃまただね。」
キクノは笑顔で見送ってくれた。そしてまた走る前に俺はまだ礼を言っていないことを思い出した。
「ブレーメンを撃退してくれてありがとうな、そんじゃまた。」
俺はまた畑の方に向かって走りだす。




