6章-17 蛇の名を持つ者
『あの子のこと、お願いね。』
妻とそう約束したが、残念ながら俺は子供を残して死んでしまった。
そして妙な水流の上を走る舟の上で呆然としていたらそのまま大きな屋敷に連れて行かれ紫色の髪の少女の前に突き出された。紫色という髪から人外かと疑ったが、その猫のような耳によってそれは確信と変わる。少女は俺の生前の行為に難癖を付けて労働を強要してきた。どうやら一定の額まで労働したら転生をさせてもらえるらしい。
「あとどの世界に転生するかくらいなら決めさせてあげる。」
と、少女は微笑む。それを聞いて俺は必死に働くことを決めた。妻との約束を忘れた訳ではないからだ。頑張って働いて転生したあとに子供と会えるかもしれない、そんな期待をしたのである。
戦闘を生前の生業としていた俺は魔物の討伐の報酬、闘技場の賞金等で金を稼いでいた。その時狼の奴と再会した。久しぶりの感動的な再会だというのにあいつは「いいぞ、かかって来な」と無粋な反応。まあ殺し合いの舞台上だ、そのくらい適当な挨拶の方がお互い遠慮が必要なくていいのだろう。
「さあ、殺り合おうか。」
俺は支給された槍、短剣、短弓を装備しヤツに飛びかかった。
俺は戦いに敗れ、次に目が覚めたのは教会の棺の中であった。そこにも懐かしい顔が居た。
「あら、貴方もこんな所に来てたの?ようこそ、私の教会へ。歓迎するわよ?」
銀髪の少女は修道服を着ていた。そこからこの地獄では死んでもこの教会で蘇生されること、死ぬ度記憶を失うことを教わった。生前と比べやや荒っぽい印象を受け、俺は思わず笑ってしまった。
「何よ、何がおかしいの?」
「いや、聖人として生まれたおまえがこんなに口汚くなっているのがツボに入ってな。」
「うるさい!あんたには関係ないでしょ!」
さてと、と俺は立ち上がり仕事を受けに行くことにした。それを見て少女は俺の肩を掴む。
「別に心配している訳じゃないけど、過労死ばかりはしないでよ。こっちも迷惑なんだから。」
「ああ、それは無理だな。」
俺には少しでも早く転生し守るべき約束があるし、何より俺達は他人より短命でかつ過労死が約束されている体質である。そんな約束ができるはずがない。
「そう、それなら私達がその度世話してあげる。何があんたをそんなに急かしているのか分からないけど、頑張りなさい。」
少女は教会の出入り口まで見送ってくれた。そして俺は仕事に戻る。
もう何度命を落としただろうか、何度ドラゴンを殺しただろうか、それでもまだ俺の罪は完済されていないらしい。生前の行動を顧みると心当たりがいくつもあるので全く反論できない。そして俺は愛していた妻の顔すらも忘れてしまっていた。だが、そのくらいのことで手を止める訳にはいかない。そんな妻との約束があるからである。何としてでも子供と再会し守らなくては、その使命感だけで俺は動いていた。その使命感があったからこそ死ぬことを許されない、この狂った世界で正気を保っていられた。
それは消耗品である武器を購買に買いに行った時であった。俺はいつもの様に適当に槍と短剣、短弓と矢を購入した。そして購買を足早に去ろうとした時、声を掛けられた。
「そこの若僧、何か困っているのではないか?」
声の主を探すとそれは蛇を思わせる模様をした仮面をつけた老人であった。




