2章-2 勇者
とりあえず俺達は酒場から出た。あの感じだとドラゴン退治だのに巻き込まれかねないので暫くは酒場を訪れることはないだろう。
「勇者様、薬草を取りに行ってくれるのですね?」
魔術師みたいな格好の少女が確認して来た。先程は人が多くてよく姿が見えなかったがとてもかわいらしい少女だ。茶色のショートカットヘアでぱっつんの前髪が特徴的である。
「あ、ああ、もちろんだとも。」
先程酒場でああ言った手前断ることが出来なかった。すると少女の顔がぱあっと明るくなる。
「でもうちは貧乏だからあまりいい報酬は払えないかも。」
「構わないよ、ただ一人じゃクエストをこなすのも大変でね、今後の仕事を手伝ってくれたらそれでいい。」
報酬も欲しかったが今回酒場に来たのはパーティメンバーを探すためだ、報酬は二の次だろう。
「なるほど、勇者様は囚人服を着てらっしゃるし罪人の方だったのですね。」
少女が納得したように頷く。罪人?死んでここに来て労働を強いられている奴らのことだろうか。あと俺の格好はここまで触れられていなかったが罪人のユニフォームとも言えるであろうボロボロの囚人服である(自分の部屋のタンスに入っていた。死んでボロボロになっても蘇生されたら一緒に新品同然になる便利な服でもある)
「私は母とここに出稼ぎをしに来たものですから一緒にお仕事ができるのはこちらにとっても助かります。」
そういや酒場のバーテンダー異世界から出稼ぎに来ている者もいると言っていた。彼女もその一人なのだろう。
「あ、すみません勇者様、自己紹介を忘れていました。」
少女は思い出したように言った。そして咳払いをして長帽子を取ってから一礼した。
「ハーフエルフのローズです。職業は見ての通り魔術師です。よろしくお願いします!」
ハーフエルフか、漫画とか小説だとかファンタジーな世界では定番の存在である。確かによく見ると耳が尖っている。
「ハーフエルフか、道理で綺麗な顔をしていると思った。」
気が付くと赤ニートが横に立っていた。右手には缶ビール、左手には何やらつまみのようなものが入った袋を持っていた。さっきの酒場での勇者騒動を口笛吹いて笑っていた赤ニートである。あの時は助けてくれても良かったんじゃないか、そう思っていたのが顔に出ていたのか赤ニートはこちらの視線に気付くと、ビールとつまみを後ろに隠す。
「何だ、そんなに見てもやらんぞ。」
「いらねーよ!」
ローズは頬を赤らめていた。
「綺麗だなんて、そんな…。生まれて初めて言われました。」
ローズは照れたように頬をかく。赤ニートはこちらの顔とローズの顔を交互に見てひとりで何やら勝手に納得したように頷く。
「不細工な勇者(笑)には不釣り合いだな。」
不細工だなんて生前一度も言われたことねーよ。でも陰で言われてたのかな、と自信を無くす。
「話の腰を折りやがって。それでローズ、薬草は急を要するんじゃなかったのか?」
「そ、そうでした!依頼の件について、とりあえず私の家まで案内しますね。勇者様、こっちです!」
ローズはそう言うと長帽子を被り直す。
「それでは赤ニートさん、失礼します。」
ローズは赤ニートに一礼した。ローズは赤ニートにも丁寧な態度で接しているのに対し赤ニートはふんぞり返ったような態度で「おう」と返す。顔をぶん殴ってやりたかったがそんな余裕はないだろう。俺はローズのあとを追った。