6章-15 蛇の名を持つ者
気が付くと俺はボロいテントの中に戻っていた。目の前には水晶玉を持ったスネークが座っていた。
「何か思い出せたかね。」
「ああ、何のために俺は日々労働をしているのかを思い出せたよ。」
「ほう、それならよかった。」
スネークは俺の方を見てニカッと笑う。
「この水晶玉のことはエンマ大王には内緒にしていてくれ。写真は黙認されているがこれは流石に許されないだろうからのう。」
スネークはゴミ山の中に水晶玉を戻す。どうやらこのゴミ山の中に隠しているらしい。
「それで今どんな気分だい、勇者様。」
ブレーメンが俺に尋ねる。
「今にでも全額返済して転生してしまいたいな。」
俺はブレーメンにやる気をアピールする。ブレーメンはそれを見ると「そうか」と笑う。
「『今にでも』ねえ、丁度いいのがあるじゃないか。」
ブレーメンはポケットから紙切れを取り出す。それは数日前に見た手配書であった。
「ここに手配書がある。これだけの懸賞金が出たらあの嬢ちゃん方に分けても十分返済しきれる額なんじゃないか?」
俺に課せられた額は一億円である。これを返済しきれば俺は晴れて転生できる、そういうことである。そしてこの手配書に書かれた懸賞金の額は3億。他二人と分けても返済しきれる額である。
「そこでおっさんから提案だ。おっさんと協力しないか?」
ブレーメンは怪しい笑みを浮かべる。何か悪いことを考えていそうな表情だ。
「もちろんおまえらにもメリットがないとな。懸賞金は全額おまえらにくれてやる。ある条件を呑んでくれたらな。」
実に魅力的な提案である。なにせ懸賞首を捕まえると即転生できるからだ。だがブレーメンはある条件を叩きつけて来た。
「この手配書では『生死を問わず』と書いてあるが『生きたまま』捕まえて欲しいんだ。ただの姉妹喧嘩で命を落とすのはかわいそうだとは思わないかね?」
「この『チグリス』って女の子はエンマ大王の姉妹なのか?」
「ああ、ただ一人の姉妹だ。どれだけ重要な存在か分かるだろう?」
言われてみれば獣耳に派手な格好と似ている点が多々ある。ブレーメンが提案した案は実に魅力的である。だがこいつはまだ大事なことを話していない。
「俺達には十分なメリットがあるのは分かった。だがおまえが得られるメリットは何なんだ?」
「さっき言っただろう?姉妹喧嘩ごときで命を落とすのはかわいそうだからだと。」
「おまえはそんなお人好しに見えない。」
ヘラヘラしているがその赤い目はギラギラとしており何か野望的なものを抱えているように見える。ブレーメンは俺の言葉を聞いて笑った。
「本当のところは騎士団は今回の騒動についてなるべく干渉しない、そういうことに決まっているんだが、おっさんは今回の件を出世のチャンスと見た。他の騎士団員を出し抜き、おっさんがエンマ様に生きた状態で唯一の姉妹を引き渡す。エンマ様はおっさんのことを見直し、出世は確定だろうな。」
出世狙いねえ、野望というには十分か。俺はブレーメンの説明に納得する。
「ああ、もちろん戦闘も手伝うぞ。おっさんはこう見えて剣には自信があるんだ。」
ブレーメンは腰の剣を抜き適当に素振りをして見せる。確かに騎士団に所属しているんだから少なくとも俺達よりは強いのだろう。
「分かった、それじゃその条件を呑もう。よろしくな、ブレーメン。」
「ああ、よろしく頼む。」
俺達は握手をし、同盟を結ぶことになった。女の子と付き合いたくて早く転生したい男と出世の野望を抱く男、実にいい組み合わせである。少なくとも俺はそう思った。




