ブレークタイム4 地獄の円卓、騎士長の頭痛
「こんな所に呼び出すとは私に何の用事でしょう、エンマ様。」
ミイラの案内で屋敷の会議室に通された銀髪の修道服の少女は開口一番から凄く不機嫌であった。今にも暴れだしそうな少女を隣の太った神父が抑え込んでいる様子はとてもシュールである。
「流石の貴方でもエンマ様に手を出したら処分をしなければならない。」
円卓のエンマ大王の横に座っているソラトがその様子を見て呆れていた。
「わかってるわよ、そんな変な物被ってる騎士団には言われたくない。」
少女はバッタのような兜を被っているソラトとその隣に座っている狼の顔(無駄にとても高いクオリティ)を被った騎士を指さす。
「姉さん、人に指を指すものではありません、もっと自分の立場というものを理解して下さい。」
隣の神父の注意を渋々聞き入れると少女はエンマ大王の向かいの席にドカと座る。足を組んで円卓に肘を付いて座っている様子を見て神父は溜息を吐きながら少女の隣に座る。
「いらっしゃい、聖女様。ここ数日ずっと探していたのだけれど?」
エンマ大王は明らかに不機嫌な少女に涼し気な笑顔を向ける。少女はエンマ大王から目を逸らす。
「娯楽街のあちこちに隠れていたらしいです、今日教会前で取り押さえましたけど。」
代わりに隣の神父が答える。
「緊急事態だというのに何をしているんだ、貴方は。」
「うっさい、私は弟から戦果をかっさらって行ったあんたを許した訳じゃないんだからね!狼じゃなくてまるでハイエナじゃない!」
狼仮面の言葉に過剰に反応する少女。この少女は一度ヒステリックを起こしてしまうとなかなか正気に戻らない困った性分なのである。
「あんたは私が火刑に処されているときもただただ傍観して…!」
「ソラト様、申し訳ありませんが私は席を外します。」
「ああ、すまない。」
狼仮面にアレルギー反応を示した少女を見て本人は退席を申し出た。ソラトはそれを承認し、狼仮面は部屋から退室して行った。
「ちょっと待ちなさいよ!」
少女が狼仮面を追いかけようと席を立った時、少女は水を浴びせられた。エンマ大王の後ろに立っていたメイド、ユリがタライに入っていた水を掛けたのだった。
「頭は冷えましたか?」
「くっ、あんたは!…そうね、私が悪かったわ。ごめんなさい。」
水に濡れた少女はそのまま席に着く。
「それでは本題に入ります。」
エンマ大王の隣に座っていた護衛役のシルクが口を開いた。
「エンマ大王様のお姉さまであられるチグリス様が反乱を起こしました。数十人の罪人を自身の城に引き連れその中にはアトラスの姿もあったと聞いています。そして城の中で大量のミノタウロスを作成しているとの情報も入っております。」
「全く頭が痛い話だ。」
ソラトが頭を抱えるような仕草を見せる。
「本来ならば騎士団が鎮圧に向かうべきなのですが…。」
シルクが言いにくそうにソラトから目を背ける。そこから察したソラトは溜息を吐く。
「そう、貴方達騎士団と教会には町と娯楽街の守りをお願いしたいの。鎮圧は他の罪人達に任せるわ、懸賞金も出しちゃったし。」
「貴方という人は、自分の命が狙われているというのにそれでよろしいのか?」
ソラトはますます頭を痛そうにする。護衛役をつけているがエンマ大王を守るのが騎士団の役割である。ソラトはその長であるから頭を痛くするのも当然である。
「貴方達が出向いたら簡単に制圧しちゃうじゃない、それじゃつまらないわよね。」
その場に居た皆が呆れたような雰囲気である。だがエンマ大王はこの地獄の主人にして絶対的な存在である。誰もそれを覆すことはできない。
「分かりました、しかしダンジョンから出て来たあちらの戦力は全力で向かい打ちますので。」
「それなら構わないわよ。」
ソラトの妥協案にエンマ大王は頭を縦に振った。ソラトはそれを見て安心したようだ。
「そこで騎士団だけじゃここ地獄の守備が心もとないのよね、物流、新しい罪人の案内とか騎士団には他にもやることが一杯あるの。そこで今回貴方達教会の戦力を貸して欲しいという訳ね。」
エンマ大王の提案に少し考え込む少女。
「別に兵を貸せって言うのなら構わないけれど、教会に送還されたあちら側の罪人を確保する人間も必要でしょ?その辺の人数が少なくなるのはどうかと思うけど。」
「あら、あの教会にはいつも貴方の立派な弟さんが居るじゃない?」
少女の意見にエンマ大王は笑顔で返す。それを聞いて少女は笑う。
「そうね、何せ私の自慢の弟ですもの。それじゃ教会に送還されたあちらの勢力の確保はお願いするわね。」
少女は隣に座っている神父の方を向く。
「了解しました。」
神父は頭を深々と下げる。それを見たエンマ大王は手をパンパンと叩く。
「それじゃ今日の円卓会議はこれでお終い。それじゃ騎士団さんと教会さんには地獄の警備をお願いするわね。」
エンマ大王は席から立ちあがると機嫌良さそうにユリを連れて退室して行く。ソラトはそれを見送った後また頭を抱える。
「はあ、また上から小言を言われる。」
少女はそんなソラトに駆け寄るとポンポンの肩を叩く。先程までの不機嫌がまるで嘘であるかのような笑顔である。
「主人が馬鹿だと大変ねえ。」
少女はそう言い残すとスキップで退室して行く。ソラトはその様子をポカンと見ていた。
「すみません、うちの姉はひねくれてて他人の不幸を幸せに感じているんです。それじゃあ、大変ですけどがんばって行きましょう。」
神父はソラトにそう言うと少女を追うように退室して行った。
「この騒ぎも何もなく終わればいいが、どう思う?」
ソラトはシルクの方を見る。
「私とブレーメンが常に近くに居るのです、エンマ様の命は何があっても無事でしょう。」
「まあ、そうだな。それでそのブレーメンは一体何所に行ったんだ?」
「えっと…。」
シルクは言いにくそうに言葉を詰まらせたあと逃げるように退室して行った。
「主人も困り者で部下も困り者で俺はどうしたらいいんだろうな。」
ソラトは目の前の紅茶を飲みながら溜息を吐く。




