6章-13 蛇の名を持つ者
「賢者だって?」
俺は思わず「スネーク」と名乗った老オークを二度見してしまった。「賢者」とは「賢」い「者」と書く。だがこのオークは言っちゃなんだがあまり賢そうに見えなかった。
「ふむ、まあそういう目で見られるのは慣れておるよ。」
当のスネークはあまり気にしていない様子である。煙草に魔法で火を点けそれを咥えた。
「昔からオークは脳筋と思われがちであったからのう。儂も生前はそうであった。」
スネークは何処か懐かしむような表情をしながら煙を吐く。
「だが若僧よ、何事にも例外があると知ると良い。オークとは言え魔法が使える者も居るだろう。つい先日おまえを殺したアトラスもそうであったように。」
本当に俺のことについてはほとんど知っているらしい。確かにあのキングオークのアトラスも加速魔法を使用していた。
「この爺さんはな、神々にも認められた賢者だ。月々の徴収も免除されるほどのな。」
「俺達は死ぬ気で働いて返済しているというのに!?」
俺の文句ありげな表情を見てスネークは「ほっほ」と笑う。
「ここ地獄は本当に研究をするにはもってこいの場所だよ、時間も永遠に続く訳だしな。」
スネークは満足そうな顔をする。でもどうやら返済を後伸ばしにしているだけのようだ、転生への意思を全く感じない。
「だが君達罪人にも技術を提供しておるよ、儂たちがこうして会話が出来ているのも儂の開発の成果であるし、エンマの小娘の魔力のおかげでもある。」
スネークは自慢気の様子である。確かに俺はいつの間に日本語がそのまま異世界でも使える物と勘違いしていたのだろうか。現地には現地の言葉があるはずである。
「まあ、全自動翻訳機みたいなものをこの爺さんが開発したってことさ。そしてエンマ様が魔力を注ぐことでこの地獄一帯では言語への不自由を全く感じないって訳よ。」
ブレーメンが横から補足説明をしてくれる。どうやらこの爺さんは本当に賢者であるらしい。
「あとはうちの人気商品の説明をするかね。」
そう言うとスネークは近くのゴミ山を漁る。そこから出て来たのは今の時代見ることはないであろうインスタントカメラのような物であった。
「ほれ、はいチーズ。」
反射的に俺はピースサインを取ってしまう。カシャという音とともにカメラから写真が出て来る。スネークはそれを取ると俺に手渡す。そこには俺と見たことのあるような人物達が写っていた。俺の後ろには包容力のありそうな女性と幸の薄そうな細身の男性、そして俺の横にはこの前三途の川で見かけた女の子が立っている。
(この人達は誰なんだ?だが絶対忘れてはいけないような人たちであった気がする。)
「ふむ、恋人だの結婚相手だのが写ることが多いがおまえさんの場合は『家族』であったか。」
「かぞく…?」
「おや、もう親の顔すら忘れてしまったのかい?」
スネークは煙草を咥えながら笑っている。かぞく?この人達が?少しづつ記憶が蘇って来た。いつも面倒臭そうにしながらも予備校に行く俺を見送ってくれた母さん、いつも残業で帰って来るのは俺らが寝てからの父さん、そしていつも俺の後ろを付いて来ていた妹。
「エンマの小娘はあまり良い顔はしないけどの、みんな隠れてはこの写真を買いにやってくるよ。」
俺は死ぬまで迷惑を掛けたであろう家族のことまで忘れてしまっていたのだ、何と罪深いことであろうか。だが写真を見た今でも顔しか思い出せない、あんなに大事であったはず家族の名前すらも思い出せない…!
「若僧よ、死んだあと世界がどうなっていたか気にならないか?」
スネークは何やら大きな水晶玉を取り出す。それは空の様に澄んだ色をしていた。




