6章-12 蛇の名を持つ者
「あいつなかなか動かないな。門番でも気取っているのか。」
洞窟の岩陰から遠目にチグリスの城を覗き込む赤ニートの視線の先には大斧を担いだ巨大な鉄の塊が立っていた。それは城の前に立っていて出入りする囚人服の検査を行い、不審な者が入って来ないか見張っている。
「こうなるんだったらあの馬鹿に武器を渡すんじゃなかったな。」
赤ニートは勇者19歳に翡翠の短剣を渡したのを後悔していた。
「武器はこれだけ確保はしたがアトラス相手じゃ分が悪いだろうし。」
赤ニートは背中に背負った多くの武器の中から槍を手に取って見る。このダンジョンに潜り込んだ時赤ニートは丸腰であったが、武器が無いのなら現地で確保すればいいのである。ダンジョン内を巡回していた囚人服から手当たり次第武器を拝借したという訳だ(ついでに武器を奪った後は証拠隠滅のため死体ごと焼き払い、教会に送還してやった)。
「スネークには遠回しに急かされたが、このままじゃ、いつ城に潜り込めたもんか分からないな。」
『儂はいつでも構わんよ。ただ他の奴らがいつまで協力的なのかは分からんが。』
スネークはそう言っていた。それは困る、非常に困る。奴らが協力してくれないとそもそも城に忍び込んだところで計画は失敗するからだ。
「さあて、これからどうしたものだか。」
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エンマ大王は古ぼけた大きな門の前に立っていた。その隣のミイラは多くの罪人を繋いだ縄を持っている。
「全く、おまえって奴は、こういうことは一人でやって欲しいところなんだが。」
「何言ってるの、もう毎月の習慣じゃない。」
エンマ大王はミイラの愚痴を適当に聞き流しながら門に触れる。すると門はそれに答えるように開く。そしてその目の前一面に広がっているのはー
「…針山に無抵抗の者を蹴り入れるなんてとても一般人には耐えきれないと思うがね。」
昨日が今月分の徴収日であった。一定額を収めることできなかった罪人はこうしてエンマ大王が直々に針山に蹴り落とすのである。ミイラは毎月その手伝いをさせられている。
「そう?それじゃこうして毎月針山に突き落としている貴方と私はどこか異常なのかもね。」
エンマ大王はうっすら笑うと目の前に跪く死んだ目をしている罪人を崖から針山に蹴り入れる。ミイラもそれを合図に次々に罪人を突き落としていく。泣き喚いて命乞いする者、諦めて目を閉じている者と様々であるが、大概の罪人は何かに絶望しそのまま無抵抗に針山に貫かれることを受け入れている。普通であれば自分が蹴り入れた者が針に貫かれ絶命している様子を目にしたら正気では居られないだろう。
「キンは大丈夫かもしれんがユリとかは耐えられたものじゃないだろうな。」
ミイラはエンマ大王に言われた分の罪人を突き落とし終えていた。エンマ大王も担当の分を蹴り入れ終わると疲れたのか「ふう」と溜息を吐く。
「人間はそんなに『転生する動機』が重要なのかしらね。さっさと完済してさっさと地獄から出て行ってくれるとありがたいのだけれど。」
「さあな。少なくとも俺は転生することに意味を感じていないからまだ地獄に居るわけだし。」
ミイラはエンマ大王の問いに答える。するとエンマ大王は微笑んだ。
「それならまだ私の近くに居てくれるってことね、嬉しいわ。」
「さっき『さっさと地獄から出て行ってくれるとありがたい』と言ったのは誰だったか。」
ミイラは苦笑いをする。エンマ大王をそんなミイラの手を取り屋敷の方に向かって走って行く。先程まで無表情で人間を針山に突き落としていた者とは同一人物とは思えないような笑顔で見た目の年相応に感じた。




