6章-11 蛇の名を持つ者
俺もブレーメンの後を追ってゴミ山の中に入って行く。テントを覘くと髭を生やした老オークが鼾をかいて寝ていた。近くには何やらボロイ書物やら薬草やら色々なものが散乱していた。その中に一つ見覚えがあるものがあった。
(あの薬草は…。)
俺がドラゴンを追い払って何とか採集した種類の薬草が大量にあった。どうしてこんな量があるのか不思議である。確かまだ市場や購買では品薄だったはず。そしてその薬草の近くには灰皿があり、その中にはまだ消え切ってない煙草が入っていた。ブレーメンはそれを見ると急いで灰皿に擦り付け、火を消す。
「おい、スネーク!寝煙草は辞めろとあれほど言っただろうに!」
先程までヘラヘラしていた男とは思えない程の必死さであった。
「ここの魔術書は全て屋敷で貸し出している物だし、おまえが死んで忘れられたら困るものも沢山あるんだぞ!」
『死んだ』ら『忘れる』ねえ、どうやらこの老オークも俺と同じ罪人であるらしい。ブレーメンに揺すられて老オークが起き上がる。ボサボサの髪に長い髭、まるで毛玉のようであった。
「何じゃブレーメン、来ていたのか。」
スネークと呼ばれた老オークは眠そうに目を擦る。ブレーメンに叱られても全く動揺せず適当に聞き流している様子だ。
「それでそいつが自称勇者の『勇者19歳』君かね?」
俺のことに気付いたスネークはこちらを見て笑う。
「俺はまだ自己紹介をしていないんだが…。」
「君のことはよく知っているとも。ここ地獄に来てからずっと見ていたからね。それとも『ギンガ』君と呼んだ方がいいかね?」
驚いた。俺は名乗ったのは酒場のあの時だけであり、浸透した呼ばれ方も「勇者」か「勇者19歳」のどちらかである。本当にスネークは俺の様子をずっと見ていたらしい。
「何で俺のことを気にしてくれてるんだ?」
「君の持っているその短剣じゃよ。」
スネークは俺の腰の短剣を指さす。それは魔力を注ぎ込み、その魔力に対応して刀身の長さを変えるといった武器であった。
「君のような魔法とは縁の無いような者が魔術師用の武器を使っている、それだけじゃ説明不足かい?」
それじゃこの老オークは俺が自分の命を削って剣を振り回していることに興味を持ち、それを傍観していたと、そういうことか。そう思うと沸々と怒りが湧いて来た。俺が強敵を前にして何度も命を落としているところ、俺の記憶がどんどん薄れて行っているところをこいつはただ傍観していたのである。俺は手に力を入れ過ぎて爪が皮膚を破ったことに気付く。手から血が流れ出ていた。
「そんなに怒ることはないじゃろ?」
俺の怒る様子を見てもスネークは余裕の表情である。
「自己紹介がまだじゃったな、儂はオークにして唯一賢者に至った者である。皆からはスネーク、または『蛇』と呼ばれておるよ。」




