6章-9 蛇の名を持つ者
「ふむ、予想以上にコーラだな。」
異世界のコーラということでコーラという名前の何か別の液体だと思っていたが、実際に飲んでみたら生前親しんでいたあのコーラであった。どうやら俺はキクノの仕入れ等の伝手をなめていたらしい。まあ値段はなかなかなボッタクリ価格であるが。
「地球産です。付け合わせにはポテトが人気ですよ。」
コーラにポテトとは、どうやら異世界の住人達の味覚はアメリカンに近いらしい。あんだけ剣振って魔法撃ってれば嫌でもカロリー使うか、あっちの酔っぱらってるエルフのおっさんもポテトを手で掴める限り掴んでは口に放り込んでいる。俺は胃もたれしそうだから遠慮しとくか。
「枝豆くれ。」
「了解しました。」
バーテンダーは後ろにある棚を開く。そこには大量の氷が入っており、開いた瞬間後ろの方にも冷気が伝わって来た。少し原始的な気がするがこの地獄にも冷蔵の技術はあるようだ。バーテンダーはその棚から袋を取り出すと皿の上に袋の中の枝豆を取り出し盛る。そして最後に手慣れたように塩をかけ俺の目の前に差し出した。俺はそれを受け取ると一つ口にする。親父が休日とかに昼間からビール片手によくつまんでいたのを思い出した。こっちに来てから働きづめだったからか、今ならその気持ちが分かる気がする。
(まあ今はニートみたいなもんだがな。)
辺りを見渡すと仲間たちと意気揚々と飲みながら騒いでいる者、今の俺と同じような心境なのか死んだ目でひたすら飲んでいる者と多彩であった。
「おう、坊主。ここ空いてるのかい?」
俺は急に声を掛けられた。振り向くとそこには麦わら帽をかぶった茶髪のボサボサ頭のおっさんが立っていた。かっこいいと思っているのか無性髭も生えている。俺をここ地獄に送った舟の漕ぎ手であり、エンマ大王の手下か何かのおっさんであった。そしておっさんは俺の了解を得る前に勝手に横の席に座る。
(エンマ大王はブレーメンと呼んでいたな。)
確かに楽器を持っている(酷く古ぼけたアコースティックギターであった。こういうのをアンティークって呼ぶのか?俺は知らん)。楽器を持っているからブレーメンか、明らかに偽名である。
「おっと、おっさんのギターを聞きたいのか?」
胡散臭いおっさんはこちらの視線に気付いたのかギターを手に取りニヤニヤしている。
「しかし残念ながらおっさんは女の子口説く時しかギターを弾かないのさ。野郎相手に聞かせる音楽は持ち合わせていないのよ。」
俺は頼んでいないのだが、一方的に話を進め勝手に断るおっさん。そして女性客を見かけると
「嬢ちゃん、俺の曲聞いてかない?あんたのために歌うぜ?」
と立ち上がりギターを持ってアピールする。それを見た女性客は「失せろ」と灰皿を投げつける。おっさんはそれを空いた手で受け止める。こんな環境で働いているんだもの、女性も心が荒れるか。
「…ブレーメンさん、仕事の邪魔をしないで頂きたい。」
バーテンダーはおっさんの前にビールを注いだジョッキを置く。何となく荒く置いたように見えた。さっさと飲んで帰れと言っているように。
「おっさん、女の子にも男にも邪見に扱われて泣いちゃう!」
ブレーメンは袖で目を擦るような仕草を見せる。もちろんただの嘘泣きであり、実際には涙も流しておらずニヤニヤしている。
「まあ、そういう訳だ小僧。辛いのはおまえだけじゃないってことだ。」
ブレーメンは俺を諭すように言った。そして俺の肩をポンポンと叩きながら空いた左手でビールを飲み始める。
「俺はあんたになにも事情を話していないんだが?」
俺はこいつに何も話していない。だからここまでの過程や事情を全く知っていないはずである。
「おっさん、偶然おまえが教会でエンマ様に掴みかかるところを見ちゃったのよ。当然会話も聞こえてたぜ?エンマ様も本当にお人が悪い。」
ブレーメンはうんうんと勝手に同情してくる。その適当な態度に俺はついイラっとしてしまった。
「あんたに俺の何が分かるってんだ!!」
「俺だって地獄の住人だ、おまえみたいな境遇の奴を何度も見て来たし、おまえのように拗ねた奴も何度も見て来たのよ。」
荒らぶって立ち上がる俺をブレーメンはなだめるように言った。
「記憶を取り返したいか?それならおまえに合わせたい奴がいる。大丈夫、おっさんのお友達だから。」
ブレーメンはニヤっと笑う。
「本当か!?取り戻せるのか!?」
その時感情的になっていて正しい判断が出来ていなかったのか、俺はそんな胡散臭いおっさんに連れられて酒場を後にしてしまった。




