6章-6 蛇の名を持つ者
「こっちも問題だが、もっと問題なのはあんたが『超人』と呼んでいる『英雄』達の方だ。」
キクノは煙管を吹かす。英雄ねえ、狼仮面とかあのキングオークとかのことだろう。
「こいつらは生まれながらにして戦うために育てられた戦闘に特化した奴らだ。そんな奴らに平和ボケしたおまえが勝てる訳ないだろう?」
キクノは煙管で頭をグリグリしてくる。こんな感じのこと以前誰かにされた気がするが思い出せない。
「筋力は何かで補強すればいいかもしれないが技量の方はどうしようもないねえ。あいつらは戦場で死ぬまで暴れた猛者だからな、私らとは経験の量が違うということさ。」
「あれ?キクノも俺と同じ一般人だったのか?」
纏っている余裕の雰囲気を見る限り俺はキクノのことをあいつら英雄と同格だと思っていた。その言葉を聞いてキクノは大声で笑う。
「少し剣と弓を習っていた程度さ、もう経験量から差が付いちまってるのさ。あいつら脳筋達と一緒にしないでおくれ。でも私達みたいな普通の人間でもあいつらに勝てる可能性はあるさ、金さえ掛ければな。」
キクノはそう言うと後ろから何やら紙切れを取り出す。お札みたいな細長い紙である。キクノはそれを口に咥えると思いっ切り息を吹き出す。すると息と一緒に炎が噴き出し、火炎放射機のように放射状に飛んで行く。
「これは『呪符』と言ってね、私達みたいな魔法について全く知識のない人間でも似たようなことができるマジックアイテムさ。まあ使い捨てなんだけどね。」
キクノが咥えていた札は役目を終えると灰になって崩れて行った。キクノはぺっぺと口の中の灰を吐き出す。
「こういった道具で誤魔化すか、あいつらより優れた武器を持って誤魔化すか、私らがあいつらを超えようとした時にできることはそれくらいだろうな。」
何か怪しい流れになって来た。キクノは俺の顔を見るとニヤッと笑う。
「幸い私は商人だ、そういった装備も色々用意しているぞ。」
やはり何か商品を進めて来る流れであった。こいつは良くも悪くも商人であることを忘れていた。初めから俺のことなんかただのカモとしか思っていないのだろう。
「すまんが金はあまり無いんでね、これで失礼するよ。」
俺は次々商品を紹介してくるキクノから逃げることにした。とりあえず酒場の方に向かって走る。そういえば英雄達の何が問題だったか聞くのを忘れていたが、今戻っても商品を売り込むことしかしないだろう。
「まあ、どうでもいいか。」
キクノは勇者が走って逃げて行ったのを確認すると取り出していた呪符などの装備を元の場所に戻す。
「まあ本当はどうやってその英雄達が生まれているのか教えても面白そうだったんだけど真似をされても面倒だしね。」
キクノは煙管を咥え一息つく。




