6章-4 蛇の名を持つ者
俺は教会前の大樹の前で寝っ転がっていた。エンマ大王に「死んだら何かの記憶を失う」と告げられてからやる気が出ないのである。言われた直後は嘘かと思っていたが、その時俺は確かに「何のために早く転生がしたかったのか」について全く思い出せなかった。その事実が俺にエンマ大王の告げたことは正しいことであると証明し、かつ俺のやる気を大いに奪った。これ以上記憶を失うと俺自身はどうなってしまうのか不安になり、これ以上死ぬことを恐れ何もできない状態なのである。
あとの2人は仕事をしているというのに俺は一体何をしてるんだろうなあ。俺は地獄に来たばかりの時にもここに寝転がっていたことを思い出した。その時誰かに声を掛けられて酒場に向かったのだった。一体あれは誰だったのか、思い出せない。その人物だけ記憶にモザイクが掛かっているようである。
「確かこの短剣をくれたヤツだったっけ。」
俺は翡翠色の短剣を手に取る。注いだ魔力の分だけ刀身が伸びる短剣、そんな短剣を魔力を持たない一般人の俺に渡すようなヤツだ、きっとマトモな人物ではないのは確かである。
「才能がないなら命を懸けろ、だったか。」
確かヤツに言われたことだった。才能があるヤツが上から目線で言える言葉である。俺らのような一般人を全く考慮していない心無い言葉であったが俺にとって大事な言葉であった気がする。その言葉通り俺は自分の命を投げ捨てローズの母の命を救い、ランスを救い、そしてまた今回キングオークの足止めをして多くの命を救ったのだった。
「もしかするといいヤツだったのかね、顔すら思い出せないが。」
でもヤツのことを許せない気がする。悪い見本を見せるためとはいえ一度嵌め殺されているからだろうか。
「前言撤回、そんなことはなかったか。」
何故だか俺はヤツに関してだけはいい印象を受けなかった気がする。武器を施して、使い方を教えて(教え方が酷かった気がするが)なおいい印象を持てないというのだから人に嫌われる才能か何かしら呪いでも受けてるのだろうか。
その時である。目の前の教会から一人の少女がこっちに向かって走って来た。銀色の長髪で修道女の格好をした美少女であった。俺は思わず見惚れてしまう。
「ねえ、そこのあんた。」
少女がこちらに向かって話しかけて来た。周囲を見渡しても他には誰も居ないし俺のことだろうか。
「そう、そこのあんた。私は今からこの大樹の上に隠れるから誰にも言っちゃ駄目よ。」
少女はそう言うとこちらの同意を見る前に大樹の上をよじ登って行く。こうガニっと足を開いて登っていく様子は残念な印象を受けた。だが、その時俺は大樹の下で横たわって居たのである。少女のパンツが丸見えであった。
(少し背伸びした黒か。)
少女が木の枝の上で丸くなっているとき教会からいつも世話になっている神父が出て来た。
「こちらに銀髪のちんまい少女は来ていませんかな。具体的には身長163cm程の。」
やけに細かい数字を出してくるなあ。だが、俺はその少女に口止めをされている。
「い、いやあ、見てないけどお。」
まあ、上を見たらパンツ丸見えの状態で丸まっているその彼女が居るんですけどね。
「その撫でまわすような視線の動き、ということは上に居ますな。」
俺の視線の動き(そんなにいやらしい動きをしていたのだろうか)を見て勘付いた神父は大樹を思いっきり蹴る。普段はかわいいおじさまという印象を受けるチョビ髭まん丸神父であったが、その蹴りは凄まじく、一瞬木が折れそうなくらい曲がった気がする。当然少女はその揺れに耐えきれる訳もなく頭から真っ逆さまに落ちる。足を開いてパンツ丸見えの状態で落下したそれはとても言い表せないくらい不格好であった。頭を打ったからか、泡を吹いている。
「さあ、姉さん、今から屋敷に行くんですよ。もちろん逃がしません。」
神父は少女を肩に担ぐと足早にその場から去って行く。
「一体何だったんだ…。」
賑やかな一団を見ているとこんな所で転がっているのが馬鹿げているように思えて来た。そういうことで俺は娯楽街の方に歩き始めた。




