5章-7 キングオーク
俺は手荒く渡された槍を持って立ち上がる。その槍は特に代わり映えすることのないただの小綺麗な槍であった。こんな棒切れ一本であの突っ込んでくる鉄の塊を止めろと言うのだからとんだ無茶振りである。木の枝一本で全速力で走っている電車を止められるか?要はそんな感じの話である。逃げきれなかった罪人達は振り下ろされる大きな大斧によってミンチにされ、運よく斧に直撃しなかった者もその走っている衝撃波によって切り裂かれていた。
(無理だ、あんなの止められる訳が無い。逃げろ。)
本能が警告するがどう考えてもあれから走って逃げられる訳が無い。だがそれは先に逃げたライオンマスク達も例外じゃない。誰かが足止めしないとあれはローズごとライオンマスクを肉塊に変えることだろう。
「逃げてもダメならどうにか足掻いてやるよ、ローズのためにもな。」
だが残念なことに渡された槍は短く、明らかにリーチ不足である。渡した本人も分かっていて渡したのだろうから質が悪い。結局こうなるのか、俺は腰の短剣を手に取る。相手に斬られることもなく、俺が力尽きることのない範囲でヤツの足を払う。そう、チャンスは一瞬だ。
「命を燃やせ―!!」
俺は目一杯の生命力を魔力に変換、その刃に流し込む。短剣はそれに答えるように緑色の刃を伸ばす。そして思い切ってヤツの足目掛けて振るう。物理属性の槍等ではヤツの鎧に触れる前に衝撃波によって砕かれるであろうが、魔力の塊であるこいつなら違うだろう。
「!?」
突進していたオークは俺の刃に躓き思いっきり転倒し、こっちにそのまま突っ込んでくる。このままだと俺がミンチにされてしまう。それを予測していた俺は槍を両手に持ち、棒高跳びの容量でオークの上を飛び越える。直後、槍はオークの直撃を受けて折れるが、俺は擦れ擦れで避けることに成功した。
「痛っ!!」
当然と言えば当然だが俺はそのまま背中を地面に叩きつけてしまう。だがどうにかヤツを転倒させることができたらしい。物凄い擦ったような音と砂煙が起こる。
「しかし、まあ手応えはあったんだけど。」
砂煙の中で平然と立ち上がる大きな影。
「この鎧を着ていなかったら今俺の足は無かっただろうな。」
キングオークのアトラスは俺を見下ろしながら言った。そして大斧を拾い上げる。
「今の失速のおかげでライオンマスクを逃がしてしまった。」
アトラスがこちらを睨みつける。
「ただの人間風情がよくもやってくれたな。」
アトラスがこっちに歩み寄って来る。だが俺にはもう逃げるほどの気力は残っていない。
「そんじゃな、愚かな罪人よ。」
アトラスがその大きな斧を振り下ろした。一瞬の痛みと共に意識がどこかに飛んで行った。




