5章-1 キングオーク
「何?ナイルが私を捕まえた者に賞金を出すって?」
あちこちひびが入っている謁見の間で一人の少女が玉座の上で足を組んでいた。ピンク色の長髪で、頭にはウサギのような耳が生えている。服は綺麗なフリルが多く使われたゴスロリ衣装である。隣の囚人服のオークが手配書を渡すとそれを荒々しく受け取る。
「舐めたことしてくれるじゃない、たかが罪人風情に私が本当に捕まると思っているのかしら。」
チグリスは余裕を装っているが妹の行動に苛ついているようだった。口は笑っていても目が笑っていない。
「3億ね、そりゃ寝返って私の首を狙ってくる阿呆も出てくるか。」
少女は二列に並んだ罪人達を一瞥する。さっきチグリスの殺そうと徒党を組んだ罪人数人が隣のオークによって処刑されたところである。
「どんなにあんたが弱くても俺が守ってやるから関係ないわな。」
隣のオーク、キングオークのアトラスが言った。その言葉に苛ついたのかチグリスは玉座から降りアトラスの体をペチペチと叩く。キングオークのアトラスと比べるとチグリスは彼の胸程度の身長しかない。
「私が弱いって何を言ってるの!?私も先代エンマ大王の血を継ぐ者の一人、弱いわけが無いじゃない!」
チグリスが胸を張る。だが囚人服達は何だか悲しそうな顔をする。姉妹でこんなにも差が付くものなのか、彼女の胸は平坦であった。
「今、多くの罪人達がここに向かって来ています。早くどうにかしなければ。」
細い貴族服を着た男が窓から外を見ながら報告する。チグリスも窓の方まで走り、その様子を確認する。アリのような大量の点がエンマ大王の屋敷からこちらの方に向かって走って来ている。
「こんなこともあろうかとミノタウロスを大量に作っておいたのよ。さあデブ、ダンジョンに向かって放っていらっしゃい。」
チグリスは小太りの貴族に命令する。しかし、彼はおどおどするばかりでその場から動こうとはしなかった。
「どうしたの?私の命令なのよ?」
「それがそのー。」
リーダー格の貴族服が言い辛そうに顔を背ける。
「ミノタウロスは上位の魔物です。先程様子を見に行ったのですがなかなか言うことを聞いてくれずー。」
ガッシャ―ン
そのとき謁見の間の扉が紙飛行機の様に軽く吹き飛ばされた。そして筋肉隆々のミノタウロスが咆哮と共に入って来る。
「あのような感じで暴走を!さあチグリス様、そのエンマの力を以ってあれを鎮めて下さい!」
貴族3人組はチグリスの後ろに隠れ、彼女を盾にする。
「えっ!?ちょっとあんた達、私を盾にって何を考えているの!?罪人ども、貴方達がどうにかなさい!!」
チグリスは囚人服の方を向き手をじたばたさせる。だが、罪人達も混乱していてとてもじゃないが使い物になりそうもない。
横から生暖かい空気が首に当たった。チグリスと貴族たちがその方向を向くとミノタウロスがすぐそこまで来ていた。
「あら、ごきげんよう?」
チグリスは声を震わせながらミノタウロスに手を振る。ミノタウロスは手に持っていた斧を高く振り上げた。だが、ミノタウロスの斧はチグリスの切り裂くことはなかった。斧を持っていた腕ごと吹き飛ばされていたからだ。腕を切られたミノタウロスはその場で倒れ痛さにもがいていた。そしてあちこちで暴れていたミノタウロス達も動きを辞めこちらを向いた。チグリスの前には血に濡れた大斧を肩に担いだアトラスが立っていた。
「どうやらこっちの方が強いと分かって大人しくなったようだな。」
アトラスは左手で先程切ったミノタウロスの腕を地面に投げつける。その様子をチグリス達や罪人達、ミノタウロス達もポカンとした様子で見ていた。
「それでこれからどうすればいいんだ?」
アトラスがチグリスの方を見る。そして彼女は我に返る。
「そうよ、罪人達はミノタウロスを連れてダンジョンで屋敷からくる奴らを迎え撃ちなさい!」
彼女の命令を聞いてアトラスは満足そうな顔をする。
「さあ、今のを聞いていたな?行くぞ、野郎ども、俺らの自由のために!!」
アトラスが大きな声で言うと周りの罪人達も歓声をあげる。そして罪人達はミノタウロスを引き連れ次々と謁見の間から退出して行く。それを確認したあとアトラスも身支度を始めた。壁に掛けかけておいた金属の鎧を全身に纏う。
「あいつらだけで大丈夫とは思うが一応ってこともあるからな、俺も行ってくる。お嬢の身の安全はあんたらに任せても大丈夫だろ?」
「も、もちろんだとも。さあ罪人はさっさとあいつらを追い払って来い。」
アトラスの問いに細い貴族は答えアトラスをシッシッと手でやる。アトラスはそれを確認すると大斧を肩に抱え謁見の間から出て行った。
「流石ですな、闘技場2位は。」
小太りの貴族はアトラスに関心したようだった。
「しかし疑問なのは何で私達に従っているんでしょう?」
細い貴族は首を傾げる。チグリスはそれを見て不機嫌そうになる。
「それはわたしに魅力があるからに決まっているじゃない。」
それを見て貴族たちはハッハッハと笑う。チグリスは貴族達の脛を思いっきり蹴る。
「笑うところじゃないでしょう!?」




