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勇者19歳  作者: 河野流
4章 開幕
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ブレークタイム3 過去回想

もう妻がベッドの上で横になってから3日目だ。こうなることは初めから分かっていたはずだった。あの子を産むと決めたときにこの結果は決まっていたのだ。

妻の額の上のタオルを変えてやる。そのときだった。妻が目を覚ましたのである。といっても体はもう動かないようだった。

「おはよう、あなた。」

「もう夜だがな。」

こんな状況なのに気の利く反応の出来ない自分に嫌気がさす。妻はそんな俺を見て微笑んだ。

「あの子は?」

自分の方が限界であろうに子供のことを気遣うのである。どこの世界の母親もこんなものなのだろうか。

「もう飯食って風呂入って寝たよ。あっちで呑気に腹出して寝てらあ。」

ぐっすりと眠っている子供の方を指さしてやる。妻は目でそれを確認すると安心したような顔をした。もう逝くのか。

「あの子のこと、お願いね。」

妻が声を振り絞って言った。そんな様子を見て断ることなんて出来るだろうか。

「ああ、だから安心して逝け。」

俺の言葉を聞いた妻はいつもの様に微笑んで、そのまま目を閉じた。そして、目を開けることはなかった。戦場で何人もの死を看取って来たが、こんなにも悲しくなるものなんだな。


もう体が動かない、意識がもうろうとしている。こうなることは初めから分かっていたはずだった。戦場で何人もの命を奪った代償なのかね、そんな男にはお似合いの最期だろう。

「目が覚めたか、体調は大丈夫か?」

軍服の男がこちらを見て言った。

「大丈夫そうに、見えるかい?」

「ああ、そうだな。」

男は鼻で笑う。

俺の体はもう動かないし、この感じだと今夜までの命だろう。そしてこの男もそれは分かっているはずだった。

「遺言とか何かあるか?可能な限り聞こう。」

男はこちらを見下ろしながら言った。

「あの子のことを、頼む。」

皮肉なことに咄嗟に出たのは妻の願いと同じものであった。

「分かった、俺の方で世話を見る。」

ああ、それならよかった。こいつなら悪いようにはしないだろう。安心すると同時に瞼が重くなって来た。妻もこんな感じだったのだろうか。

「それじゃ、あとは任された。安らかに眠ると良い。」


『あの子のこと、お願いね。』

妻のあのセリフが俺の耳に残り、死後もその鎖から解放されることはなかった。いや、むしろ解放されてはいけない、俺と妻とを結んだ最後の言葉だったのだから。


「ああ、もうこんな時間か。」

俺はベッドから起きてタンスの中の囚人服を着る。何やら外が騒がしいようだ。

「さて、それじゃ俺も行ってくるよ。」

写真立ての妻にしっかり挨拶して俺は外に出た。しばらく会うこともないだろうから。


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朱の国
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欲望の国
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