4章-9 開幕
風呂からあがって部屋に戻って来ていた。今日は疲れたからサッサと寝たい。まあ今日に限った話じゃないが。大体紹介される仕事一つ一つの報酬が安すぎて一日にいくつかの仕事を並行してやることになるのが悪い。隣に座っているランスも櫛で髪を梳かしながら欠伸をしている。
「今日は疲れたからもう寝るか。俺はベッドで寝るから適当に寝てくれ。」
俺はいつも使っている寝床じゃないと寝られない。まあ、女の子に床に寝ろっていうのも悪いと思うが仕方ないね。ランスは落ち着きなくそわそわしている。
「どうした?ランス。」
「いえ、こうして誰かと同じ部屋で寝るのも生前以来だなと。生前は兄達、姉達、弟達、妹達と一つの部屋で川の字っていうのも変かもしれませんがそんな感じで寝ていたものです。」
ランスが遠い目をしている。昔のことを懐かしんでいるんだろうか。
「風呂入ってた時から思っていたんだが、ランスの家って家族が一杯居たんだな。お父さんとかお兄さんとかお姉さんとか、弟妹も居たんだな。」
「そうですね何人くらい居たでしょうか。人数は覚えていませんが、名前と顔は全員覚えてます。」
そう言うとランスは両手の指を使って数え始めた。そこまでの人数なのか、何か複雑な家庭なのかな。風呂も男女問わずみんなで入っていると言ったし。
「それじゃそろそろ明かり消すぞ。明日も早いんだ。」
「了解です、おやすみなさい。」
俺が明かりを消すのを待たずにランスは床に寝そべりいびきをかき始める。その速さに関心しながら俺は明かりを息で吹き消した。
何時間くらいたっただろうか、俺は何かの気配を感じ目が覚めた。
(体が重い…!?)
体を起こそうとしても重くて起こせない。体の方に視線をやると妙に布団が盛り上がっている。これはあれか?ホラー映画でよくある展開で何か恐ろしいのがここに…。恐怖を感じたが俺は布団をめくってみることにした。
(せーのっ。)
布団を思い切ってめくるとそこには見知った影が。
「どうした?ランス。」
俺の体に必死にしがみついていたのは金の長髪の少女であった。少女はしがみついたまま顔をこちらに向けない。時々鼻水をすする音もする。
「勇者様が悪いんですよ、生前のことを思い出させるようなことばかり言うから…。」
ああ、そうか、ランスもまだ小さい子供だ。俺達と比べて気持ちを整理するのに時間がかかるだろうし、地獄に一人投げ出された気持ちなんて全く想像がつかない。
「お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん…。」
ランスが俺を掴んでいる手に力を入れる。俺はそんなランスの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「俺が悪かったよ、昔のことを思い出させてごめんな。」
ランスは無言で頷く。
「そのお詫びと言っちゃあれだが、俺のことを兄ちゃん代わりに思うといい。」
「…お兄ちゃんって呼んでいい?」
やっとランスがこっちを向いてくれた。結構長い時間泣いていたのだろうか、目の周りが腫れている。
「いいとも、こんな貧弱で頼りない俺でもいいなら。」
さっきまで胸にしがみついていたランスは思いっきり俺に抱きついて来た。
「お兄ちゃん!」
その腕の力は相変わらずで俺の気管が圧迫される。とてもじゃないが「息が苦しいから離れろ」といえる雰囲気ではなかったため、俺は我慢しながらランスの頭を撫でる。だんだん意識が遠くなって来た。まあ、たまにはこういう寝方も悪くはないのだろうか。今日はぐっすり眠れそうだ。




