4章-2 開幕
俺はエンマ大王の屋敷の前でローズ、ランスと待ち合わせていた。俺が屋敷の前で待ち始めてすぐにローズはやって来た。いつも通り特に装飾の無い黒い長帽子に黒いマントを身に着けている。
「おはようございます、勇者様。」
「おはよう、ローズ。」
ローズは頭を下げて挨拶しているのに、俺は頭を下げるのが恥ずかしくて軽く手で返してしまった。もう19だし、もう少し大人にならないとな。
ローズが来た後、何かを引きずっているような音がした。音がした方を見ると何やら大きなものを引きずっている少女が居た。
「あ、おはようございます、勇者様。」
上半身に鎧を纏った金髪ポニーテールのロリっ娘、ランスは軽く礼をする。
「おはよう、ランス。そしてそれは?」
「見ての通り大盾です。私、盾には自信がありますので任せて下さい!」
ランスは得意げに胸を張る。とりあえずこの幼女は鉄の塊を軽々持つくらいの力があるみたいなので、少なくとも俺よりは戦力になるだろう。
(こんなロリにも力が負けるって、俺はどうすればいいんだ。)
俺は左手に持ったまな板のような貧相な盾と見比べてついついため息が出てしまった。
「あら、『勇者19歳』さん、両手に花ね。」
受付に立っていた紫髪の猫娘、エンマ大王がいつも通りの笑顔で迎えてくれた。両手に花というキーワードにローズとランスは照れているようだった。
(ここまで『勇者19歳』が広まっていたか。)
噂が広まるのは早いものだと苦笑いしてしまう。
「まあ、そんな趣味があるなんて思わなかったけど。」
ランスの方を見ながらエンマ大王は表情一つ変えないで言った。
「いや、ロリコンなんかじゃないぞ?」
「そう?何も問題を起こしてくれなければそれでいいわ。」
エンマ大王は半信半疑といった表情だ。こいつ…。
「何だか今日は人が少ないですね。」
「さあ?みんな寝てるんじゃないかしら?」
ローズの質問にも適当に返すエンマ大王。まあ、いつも通りと言えばいつも通りだが…。
(もしかして今機嫌悪い?)
見た目はいつもと変わらないがいつもよりピリピリしている気がする。
「勇者様、これなんてどうです?」
ローズが指さしたクエストを確認する。娯楽街の薬品市場の主人からの依頼だった。
「薬草を摘んできてくれ、ねえ。」
あのドラゴンと戦った森にある薬草のことだろう。森は洞窟や谷と比べて比較的優しいダンジョンであると聞いている。俺の能力を考慮しての提案なのだろうがランスの実力がどれほどか確認するにはちょうどいいんじゃないか?
「それじゃこの仕事を受けるよ。」
「はい、それじゃ森に行くのね。気を付けてねー。」
エンマ大王は座ったままだったが手を振って見送ってくれた。
―――――――――――――――
勇者19歳が来る30分程前だっただろうか、エンマ大王の屋敷の前には珍しい人が来ていた。
「あら、赤ニートじゃない。」
エンマ大王は受付から体中痛々しい傷だらけの男、赤ニートに声をかける。
「こんな所に来るなんて珍しいわね。ニート辞めたの?」
「まあな。」
赤ニートは適当に返事をするとエンマ大王の前の机に札束を次々に置いていく。
「どうしたの、こんな額?」
「俺が本気を出したらこんなもんだ。」
エンマ大王は隣の秤にその札束を乗せる。
「完済ね、おめでとう。どうする?すぐにでも転生する?」
「いや、まだここでやり残したことがあるんだ、暫くはここに居るよ。」
「それとも他の貴族とかから声が掛かったのかしら。」
「まあ、そんなところだ。そういう訳で暫くおまえと会うこともないだろう。」
赤ニートは「じゃあな」と何所かに去って行った。
「私は結構貴方のこと気に入ってたんだけどね。」
エンマ大王は赤ニートには聞こえないように呟いた。




