3章-8 娯楽街
「何だあれ?」
観客席の誰かが競技場内の異変に気付いた。狼仮面とライオンマスク以外の選手は全員開幕直後の槍の雨に貫かれて死んだはずだが、競技場の端に囚人服の大男が立っていた。右手には大斧、そして左手にはー。
「何だ、あいつは、自分の首を持って立ってるぞ。」
一番驚くべきなのはそこではない。本来首があるべき位置からは黒い触手が複数伸びている。そして、波を打つように動いていた。
「ギョァァァァァ!!」
それは声にならない大きな咆哮を上げると、観客席目掛けて走り出す。観客たちは悲鳴をあげ、通路に殺到する。化け物は観客席の目の前にまで迫っていた。
「そこのおまえら罪人だろ?我ら貴族の盾になれることを光栄に思うがいい。」
そう言って罪人達を競技場内に蹴り入れる貴族達。
「え?ちょっー。」
一人の罪人が触手につかまれた。すると触手の中央に大きな口が現れて丸飲みする。魔法で攻撃する者もいるが全くひるむことなく、続けてそれは鎧を着た少女を掴む。
「ローズ、おまえは逃げろ!」
俺は競技場に向かって走る。あんな化け物相手に何ができるのかと言われると答えられないが、小さな女の子が食べられるのを黙って見ていられない。最悪触手の一本くらいなら俺でも斬れるだろう。
もう一歩!間に合うかー!!
俺は剣に力を込めビームを放ち触手をちぎるが、女の子はそのまま宙に浮いてしまっている。このままだと口の中に入ってしまう。その時、狼仮面がその少女を受け止め、そのまま化け物を飛び越える。
「おい、逃げるぞ!!」
直後、大量の槍が化け物目掛けて降り注ぐ。闘技大会開幕時のあの魔術である。時折俺の近くをかすって行く。
「逃げるって、この化け物からじゃなくてライオンマスクからかよ!?」
俺と蹴落とされた罪人達は必死になって観客席を駆け上がる。化け物も流石に槍の雨の前には動けないらしく、追ってくる様子はない。狼仮面は観客製でもかなり上の方に着くと少女を下ろす。
「まだ決着が付いていないのでな、俺はここで失礼する。」
狼仮面はそう言うと競技場に向かって走って行った。競技場に化け物と一緒に残されたライオンマスクは槍を降らせながら、右手に持った槍で化け物の攻撃を流していた。
弾切れなのか槍が射出されなくなった。それを見るなり化け物の猛攻が始まった。化け物はその数に任せて触手で殴る。流石のライオンマスクも裁ききれなかったのか、吹き飛ばされて壁にぶつかる。触手がライオンマスクに追撃を仕掛けようとした時、狼仮面がその触手をハルバードで切り裂き割って入る。
そこからは狼仮面が前陣でタゲ取りを行い、ライオンマスクは後ろから弓を撃っていた(ものすごい勢いなので「射る」より「撃つ」の方が近い気がする。)。狼仮面がギリギリの位置で触手を切り落とし、隙あらば突き、そしてライオンマスクが後ろから魔弾を撃つ。あまりに見事な動きであり、俺達はその戦いに見惚れていた。そしてそのまま30分くらい経っただろうか、化け物の動きは止まり、沈黙した。闘技場に残っていたのは俺と数人の罪人くらいだったが、全員で拍手を送った。狼仮面は疲れたのかその場に仰向けに寝転がり、ライオンマスクは去って行った。ライオンマスクが闘技場から去ると同時に刺さっていた槍は全て消滅した。
「あの、さっきは助けていただきありがとうございました。」
鎧姿の少女が言った。兜は先程の騒動で落としてしまったようで顔が見える状態になっている。金髪のポニーテールの女の子だった。身長的に小学生くらいだろうか。
「お礼なら狼仮面に言った方がいい。」
「いえ、狼仮面さんの力もですが、貴方の剣のおかげで食べられずに済んだんです。」
少女は微笑みながらこちらに握手を求める。
「ランス・ウォーカーです。」
俺はランスに応じてその手を取る。そして俺達は競技場の狼仮面の方に向かった。




