3章-6 娯楽街
「いつ来ても悪趣味よね、闘技大会なんて。」
闘技場のゲスト席に座ったエンマ大王がつまらなそうに周りを見渡しながら言った。一般観客席には囚人服を着た罪人や移民達に紛れて、きれいな服を着ている者も多い。
「貴族たちが罪人達に装備だの出資して、私が蘇生させることをいいことに賞金をちらつかせて殺し合いをさせるんだもの。」
「耳の痛いことです。」
隣の席に座ったソラトが苦笑いしながら言った。
「初めは我々騎士団の訓練の一環として開いていたものなのですが、一度やる気を出すためと私のポケットマネーからちょっと賞金を出したのがいけませんでしたね。気づいたらその賞金を狙った罪人も混ざっており、それを見て横から楽しそうにヤジを飛ばす貴族達といったものになってしまいました。」
「そして結果もつまらないわよね、ライオンマスクが消えてからは狼仮面が常に優勝だもの。」
エンマ大王は入場する際にもらった参加する選手の表を見る。
「そもそも戦闘が得意な神話代の罪人自体が少ないですからね、それは仕方ありません。」
ソラトがストローで飲み物を飲む。エンマ大王はその様子を見て少し笑う。
「飲みにくいなら取ればいいのに。」
「いえ、エンマ様から頂いた大事な兜です。脱ぐ訳にはいきません。」
ソラトが身に着けている兜はエンマ大王がソラトが騎士団団長に就任した際に祝いの品として送ったものである。
「まさかこんなに大事に使ってもらえるとはねー。」
もっといい物を送ってあげればよかったとエンマ大王は思った。
「今から始まるみたいですよ。」
―――――――――――――――
キングオークのアトラスは今興奮状態にあった。今から闘技大会が始まるのだ。そして目の前にはいつも優勝している、銀の鎧を身に着けハルバードを持っている狼仮面が立っている。
(まずは狼仮面を片付けよう。大丈夫だ、貴族の方から頂いた大斧がある。)
この闘技大会というのは8人一斉に競技場に出て、そこから殺し合い、最後まで生き残ったのが勝ちというサバイバル形式のものだ。
(さらに今日は狼仮面を倒すために奥の手を用意してあるんだ、きっと大丈夫。)
あとのエルフだのオークだのとは一度過去に戦っており、その時に勝っている。
そして開始の鐘が鳴り響くと同時に戦士が闘技場に雪崩込む。
「よし、狼仮面、覚悟―。」
そのときアトラスは後ろから飛んできた何かに首が吹き飛ばされて死亡した。
―――――――――――――――
俺とローズはキクノに案内されながら闘技場の観客席に来ていた。「勇者様も参加する?」と誘われたが、超人の中に混じって勝てる気がしないので断った。
「今日も貴族の方々がたくさん来てますね。」
ローズが周りを見渡しながら言った。なるほど、囚人服姿の男達に混じって明らかに貴族と分かるような格好の者も居た。
「今日は月一度の闘技大会だからね、楽しみにしていた人も多いだろうね。」
キクノは腕を組みながら言った。
「キクノさんは貴族じゃないんですか?」
俺が言うとキクノさんは手を横に振る。
「いやいや、私も罪人だよ。完済してるけど。」
囚人服を着ていないがキクノも罪人のようだ。だけど完済したのにここに残っているのか。
「今商売が楽しくてねー、飽きたらそのうち転生するさ。」
こちらの心を読んだのかキクノは続けた。
「まあ、その商売も最近きついんだけどね、特にこの闘技大会の賭け事だ。ここ最近は狼仮面の一人勝ちなんだよ。」
「キクノさん、私も狼仮面さんで一口買います。」
ローズが目を輝かせながらキクノに現金を差し出す。どうやら賭け事も好きらしいな。
(それは辞めておいた方がいいんじゃないか?)
大学に行きながらパチ屋に通っていた友人のことを思い出す。「数万負けたわー」とよく言っていた。あの友人と同じ雰囲気である。
「ローズちゃんさっきの話聞いてた?ここ最近狼仮面の一人勝ちであんまりやりたくないんだけど。」
参加者は競技場の端の方に待機しているようだった。体つきのよいオークやエルフに混じって一人異質な人物が居た。
(どう見てもあれが狼仮面だよな?)
それは首から上が狼の被り物で、あとは騎士団の鎧を着ている男(多分)だった。右手にはハルバードを抱えており、左手には小さな金属盾を持っている。
「ローズちゃん、今から始まるみたいだよ、落ち着いて。」
開始の鐘の音が鳴り響いた時だった。競技場の上に無数の槍が現れて、参加者達を引き裂く。槍の数は数十どころでなく、数百、もしかすると千を超えているかもしれない。巻き起こった砂煙が収まるとそこには狼仮面ともう一人の男(これも多分)が立っていた。その男は頭にライオンの顔のような被り物をしていて囚人服を着ていた。右手にはボロイ槍、左手には短い剣を持っていて、弓を背負っていた。
「このえげつないやり方とあの姿、ライオンマスクが帰って来たのか!」
キクノが珍しく興奮していた。周りの観客席からもざわめきが聞こえる。
「ライオンマスクが帰って来たよ、さあ一口300からだ、さあ買った買った!」
キクノは持っていたビラをメガホンの替わりにし、大きな声を出す。すると次々にキクノの周りに人が集まっていく。
(こういうサプライズがあっても全く動じないとは、なかなかな商人気質だな。)
俺の隣に座っていたローズも落ち着かないようでそわそわしていた。
「どうした?ローズ。」
「私はどちらに賭けるといいと思いますか!?」
落ち着かない様子だと思ったらそっちだったか。
「まあ、好きな方でいいんじゃないか?」
俺がそう言うとローズは決心したのか券を販売しているキクノの方に走って行く。




