3章-5 娯楽街
エンマ大王は今娯楽市に来ていた。バッタ顔のような特徴的な形をした兜を被って、その下は白いマントを着けている少年が横を歩いている。
「ソラト、デートに誘ってくれるのは嬉しいんだけど、これはどうかと思うわよ?」
エンマ大王は不機嫌そうな顔で後ろを向く。エンマ大王とバッタ頭の少年、ソラトの後ろには白銀の鎧を身に着けた騎士が2列で並んで付いて来ていた。先頭の騎士がエンマ大王の視線に気付くとその場で跪く。そして先頭が跪くのを見て次々と他の騎士たちも跪く。
「エンマ様、貴方はもう少し自分の立場を理解するべきだ。この前も屋敷に置いておいたブレーメンやシルクの目を盗んで娯楽市に来ていたとキクノから報告を受けています。」
ソロバンを買った日のことだろう。キクノがあのあとソラトにチクったらしい。
「だってブレーメンはおじさんだし、シルクは真面目過ぎだしで一緒に連れて来ても面白くないもの。」
エンマ大王はプイとそっぽを向く。それを見たソラトが頭を抱える。
「…あのなあ、俺も忙しいってのに、あんたが無断で外出する度に他の神々に説教食らうんだぞ。理解してくれよ、ナイル。」
「分かったわ、その代わりブレーメンじゃなくて露草を付けて頂戴。ブレーメンはどうしても胡散臭くて苦手なの。」
エンマ大王の我儘にソラトは溜息を吐く。
「今クランは地上に出向いていて天界には居ないんだ。」
「そう、じゃあシルクで我慢する。我儘言ってごめんなさいね、ソラト。」
エンマ大王は不機嫌そうな顔をしながら言った。ソラトはそれを見て胸をなでおろす。
「それじゃエンマ様、そろそろお昼にしましょう。今日はどうやらドラゴンの肉が入荷されているそうです。」
エンマ大王はソラトに連れられて食品市場の方に向かった。
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「何だか今日は特別賑やかな気がするな。」
俺はローズと一緒に娯楽街に来ていた。エンマ大王の屋敷の前に一旦集まったのだが、今日はエンマ大王が不在のようで閉まっているようだった。
「勇者様、今日はドラゴンが市場に並んでいるそうです。」
ローズがビラを見せて来た。そこには「娯楽街春のドラゴン祭り」と書いてあった。今春だっけか。
「まあ、私達じゃちょっと高いかも知れませんけど。」
ローズがどこか遠い目をしながら苦笑いをした。
「あと今日はソラト様が地獄にいらっしゃっているから賑やかなんだと思います。」
「ソラト様?」
俺の反応を見てローズが食品市場の方を指さす。そこには銀の鎧を身に纏った騎士たちが2列に並んでいた。
「あの方達が天界を守護していて、罪人をこの地獄に運んだり、色んなもの輸出入をする際に尽力してくれる天界騎士団と呼ばれる方々です。そして、そのトップであるのがあちらに座っておられるソラト様です。」
食料市に並んでいる丸いテーブルのところにエンマ大王と座っていたのが、何とも特徴的な兜を被っている少年だった。あんな感じの生き物、生前に見たことがある。
「バッタだな。」
低い身長と白いマントもあって、完全にバッタに見える。猫とバッタか、すごい組み合わせだな。
「ダメです、勇者様!!」
ローズが焦った様子で俺の口を塞ぐ。そして俺に近づいて耳打ちする。
「以前『バッタ仮面』と言った子供が留置所に連行されて行くのを見ました。普段は心が広いお方ですが、『バッタ』という単語には敏感なようなので気を付けてください。」
「ああ、ありがとう。」
ローズが必死に説明してくれているのだが、俺は話を聞くことに集中できなかった。なぜならローズの胸の谷間が見えていたからだ。
(見え、見えー。)
「…勇者様?」
ローズはハッと気付くと胸を隠し俺から離れる。そしてゴミを見るような目でこちらを見る。
「いや、すいません、悪気は無かったんです。」
俺はその場で土下座をする。この前赤ニートに土下座をして以来完全に抵抗がなくなって来ている。
「何だい、騒がしいね。」
一人の女性が近づいて来た。黒髪のロングヘア―で右目がが隠れている袴姿(というか男が来ているような袴に似ている。上を着崩して、胸のさらしが見えている)で右手には高そうなキセルを持っていた。
「キクノさん!」
ローズが嬉しそうに言った。キクノ?この娯楽街を作った人だったか。
「ローズちゃんじゃないか。それじゃ、こっちのがこの前ドラゴンを追い払ったという『勇者19歳』か。」
「勇者19歳?」
「あんた噂になってるよ。いや語呂のいい肩書じゃないか、どういう意味かまでは聞いてはいないが。」
赤ニートかローズかが言ったらしい。意味まで伝わっていないなら良かったです、はい。
「ローズちゃん、薬草の件はごめんね、誰かさんがあの薬草を買い占めていてね、丁度無かったんだ。」
「いえ、こうして勇者様のおかげで助かったので。」
「それなら良かった」とキクノは笑う。
「それでその勇者様御一行が今日はどういった物をお探しで?今日はドラゴンの肉がお勧めだよ。」
「いえ、流石にドラゴンは高くて買えないです。」
キクノはさり気なく高級肉を勧めてくるが、ローズがそれを断る。
「今日は盾を見に来たんです。」
俺が言うとキクノがわざとらしく驚いたような顔をする。
「盾か、今丁度ドラゴンの鱗で作った盾がー。」
「「いや、だからー。」」
キクノが俺たちの反応を見て苦笑いをする。そして俺の方をまじまじと見る。
「そうだね、その細腕じゃ金属の盾は重そうだ。そうなると木盾か革でできた盾だろうな。」
キクノがそう言うと、近くの防具屋のオークが木製の盾をいくつか持ってきて並べた。
「これはまだ重そうだ、これでもまだ重い。」
キクノが盾を一つ一つ選別していく。そして残ったのはまな板に取っ手が付いたような見た目の盾だけであった。
「はは、不格好だが、あんたが装備出来そうなのはこれくらいみたいだ。まあ、値段も手ごろだしいいんじゃないか?」
キクノがこちらに手渡す。見た目はどうかと思ったが、なるほど、キクノの言ったように丁度いい重さであった。
「じゃあ、これを頂きます。」
俺は防具屋に料金を払う。キクノはそれを見て「まいどありー。」と笑う。
「それで今日はソラト様が来ているから、闘技大会があるぞ。よかったら闘技場に見に来て頂戴ね。」




