3章-2 娯楽街
(もうスライム相手に死ぬことはない、そう思っていたんだが…。)
「数回死んだな。」
俺の戦闘スタイルは短剣一本でそれに命を注ぎ込んで振るうというものである。振って受けてを繰り返すだけで生命エネルギーがゴリゴリ削れて、最終的には死んでしまう。しかも魔術師であり死ぬことが許されていないローズを守るために敵のヘイトを集める必要がある。それがさらに生命エネルギーの減りの速さに拍車をかけている。一体相手ならまだしも複数体相手の時はもう無理だ。
「剣を振るだけで死ぬし、受けても死ぬ、どうしろと。」
ドラゴンの時は最後気力で振るっていたのだが、こう近くに女子がいるだけで落ち着かないのである。常にローズの方が気になって集中どころではない。こんなところにもリア充非リア充で差が出てしまうのである。なんと嘆かわしいことか!
「リア充爆発しろ。」
「勇者様?さっきから何を呟いているのです?」
当の本人は全く気付く様子はない。いや、ローズは何も悪くはないんだけどね。
「腹が減っただけだよ。」
まあ、本当は俺達罪人は飢えることはないんだが。
「食事は数少ない活力の素ですから。勇者様もうちで食べて行って下さい。」
そう言いながらローズは八百屋の野菜とにらめっこしている。今俺達は市場に来ている。あちこちに囚人服を着た罪人、冒険者のような格好をした移民の姿が見え非常に賑やかだ。地獄と呼ばれている割には酒場があったり、このような市場があったりと活気付いているように感じる。
「そういえば、ここ地獄で家畜とか見とことないんだが、肉とかどこから来てるんだ?」
ふと疑問を口にするとローズが驚いたような顔をする。あ、手に取っていた人参が落ちた。
「勇者様って地獄に来て日が浅いんでしたね。」
ローズは八百屋のおじさんに代金を支払って紙袋を受け取る。少しサービスしてもらえた様で嬉しそうである。
「ここ地獄は本来勇者様のような罪人方の世界ですよね?罪人の方々は死んだ状態ですので食事、囚人服以外の服は必要ないんです。だからこの世界では食品も衣服も娯楽品に含まれる訳です。」
あのエンマ大王なら「食わずに働きなさい」なんて言いそうだな。
「そこで罪人達に娯楽の需要を見出したキクノさんが天界騎士団団長ソラト様の協力の下ここ『娯楽街』を作ったわけです。」
そう言うとローズは案内板を指さす。確かにそこには「娯楽街」と書かれていた。この前騒動を起こしてしまった酒場、今現在居る食品市場、その隣には衣料品市、さらに薬品市場と続いている。その他にも色んな市場があるようだ。
「そして騎士団の舟を借りて他の天界から輸入してここで販売している訳です。」
地獄に来る時に通った鎖のようなもの、あそこを通して運んでいるということか。
「ここ『娯楽街』に来れば大概のものは揃うので、私達移民は助かっています。」
確かに移民には食事も衣類も必要であろう。上手くやったもんだ、そのキクノって人は。
「また色々な世界のものが集まるので、ここ地獄は貴族の方々の取引場所としても使われています。」
ローズが得意げに話していると、ぐーという間の抜けた音が鳴った。俺じゃないからローズなんだろう。ローズの方を見ると頬を染めながら恥ずかしそうな顔をして笑う。
「すいません、勇者様。私お腹が空いてしまいました。」
それならと俺達はローズの家に向かって歩き出した。




