3章-1 娯楽街
テーブルの上の料理の料理が片付くころには宴会もすっかりお開きモードだった。まだ缶ビールを飲んでいる体中傷だらけの上裸で長髪の男、その正面にはテーブルに突っ伏している茶色のショートヘアの美少女、テーブルの上には大量の空き缶となかなかにカオスなことになっている。体中傷だらけの男、赤ニートが次から次へと缶ビールを取り出すのがいけない(ズボンしか身に着けていないのにいったい何処からこれだけの量の缶を出しているんだか)。
「勇者様、お水貰ってもいいですか?」
先程まで上機嫌だった少女、ローズもすっかりグロッキーになっていた。顔が青白くなっていて明らかに体調が悪そうである。いや、俺は止めたんですけどね。目の前にあったコップに水差しで水を入れてやってローズに手渡す。
「ありがとうございます。」
ローズは受け取るとすぐにその水を飲み干す。
「大丈夫か?」
俺がどれだけ死んでも一切心配なんかしたことがない赤ニート(それどころか一度嵌められて殺されている)が珍しく他人を気遣っているようだった。
「すいません、赤ニートさん。」
赤ニートはローズを軽く抱き上げるとトイレに連れて行く。あの赤ニートが介抱だとか明日は雨が降るかもしれない。赤ニートがこちらの視線に気付くと、手でシッシッとあっち行けのジェスチャーをする。
(ただ単に俺が嫌われてるのかね。)
これ以上ここに居ても邪魔なだけなので俺は帰ることにした。
俺はローズの母にお礼を言って家を出た。
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「勇者様?」
ノックの音で目が覚めた。ベッドから起きてドアを開けるとローズが立っていた。いつも通り黒い長帽子を被って黒いマントを身に着けている。
「今日動いて大丈夫だったのか?」
「昨日は大変失礼しました!」
ローズは昨日のことを思い出して少し恥ずかしくなったのか、頬を赤らめながら何度も頭を下げた。
「いや、そんなに頭を下げなくていいから。」
周りの目が痛い。ここは男ばかりの僚みたいな施設でありローズのような美少女は浮いてしまうし、それで頭を下げさせているとか印象は最悪であろう。罪人が少しずつ集まって来た。
「とりあえずエンマ大王の屋敷に行こうか。」
俺はローズの手を掴むと、集まって来た男どもを掻き分けて外に出た。
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エンマ大王の屋敷に着くといつものように囚人服の罪人が仕事を求めて集まって来ていた。
「いらっしゃーい。」
エンマ大王はこちらに気付くと近寄って来た。香水の香りだろうか、いい匂いがする。
「ドラゴン退治はうまくいったようね。ドラゴンが悔しそうな顔しながら何処かに飛んで行ったもの。それでー。」
エンマ大王がローズの方を指さす。ローズは張り出されているクエストの紙を見ていた。
「ねえ、あの娘とはどこまで行ったの?キスとかしちゃった?」
エンマ大王が子供の様に(まあ見た目は子供だけど)はしゃぐ。
「ただの連れだよ、特に何もない。」
まあ少なくともあっちは何も思ってないだろうな。強いて言うなら母親の命を救ってくれた恩人程度にしか思われていないと思う。
「あら、いけないこと聞いちゃったわね。まあ頑張りなさい。」
エンマ大王が慰めているつもりなのか、背中を叩いてくれた。
「それであの娘は移民みたいだから気を付けてあげなさいね。」
「気を付けろって何を?」
「あら言ってなかったかしら、私が蘇生できるのは私が支配している貴方達罪人だけで移民は管轄外なの。だからここ地獄で死んだらどうなるかなんて私も分からないわ。」
俺とエンマ大王の間の空気が一瞬固まった。
「初耳だよ!?何でそんな大事なことを早く言わない!!」
森の中を案内されていた時に何度かスライムに出くわしたが、当時俺は武器である翡翠の短剣の使い方を知らなかったためローズの後ろに隠れていた。あの行動って本当は結構不味かったのではないか?あと、ローズが母のために必死になって協力者を探していたこと、母の命が助かった後の宴会ではしゃぎ過ぎていたこと(本当に酒癖が悪いのかもしれないが)に合点がいった。
「今言ったからいいじゃない、そんな大声を出さなくても。」
エンマ大王がわざとらしく手で耳をふさぐ。
「まあ、そういう訳だから気を付けなさいね。」
エンマ大王が逃げるように受付に戻って行った。やっとパーティメンバーが出来て少しは楽ができると思ったがそういう訳ではないらしい。最悪一般の人間程度の生命力しか持たない俺がローズの肉壁にならないといけないということである。
「はあ、頭が痛い。」




