2章-7 勇者
「勇者様?」
真っ暗な空間に夕日の光が差し込む。また棺をローズが開けてくれたらしい。
「勇者様ありがとうございました!!」
俺が身を起こすなりローズは抱きついて来た。この前は「抱きつく」というより「触れる」という表現が近かったが現在は思いっきり抱きついている。俺の胸に柔らかいものがくっつく。そこまで大きいサイズではないようだ。
(何考えてるんだろうな、俺は。)
うまい奴ならここで気の利いたことを言えるんだろうが俺には何も浮かばなかった。こういうところに経験の差が生まれてしまうのだろうか。
「それでローズのお母さんは?」
「はい、勇者様がドラゴンを追い払ってくれたおかげで何とか!今は熱も下がってます!」
ローズは立ち上がってそのあとの状況を報告してくれた。身振り手振りして以前より活発に見える。その笑顔を見て、ドッと疲れが来た。
(何度も死んだからな。でもー)
これ以上無いというようなローズの笑顔を見て。何だかこっちも嬉しくなってしまう。
(まあこの笑顔を見れただけ良しとしよう。)
俺は一緒に棺の中に入っていた翡翠の短剣の手に取る。こいつのせいで死んだがこいつのおかげでドラゴンを追い払えたのだから、今回のMVPは誰か何かというとこれになるんだろう。
「お?嬢ちゃん、勇者様は目が覚めたかい?」
教会に入って来たのは体中痛々しい傷だらけの男、赤ニートである。その顔を見ると翡翠の短剣で死んだ件を思い出した。
「赤ニート、おまえのせいでなー。」
「まあまあ、結果的にドラゴンを追い払えたしいいじゃないの。」
赤ニートは全く悪いと思っていないようだった。
「そうです、勇者様、赤ニートさん、うちで宴会をやるんで来て下さい!!」
余程嬉しいのか赤ニートまで誘うローズ。赤ニートは「いいね」と便乗する姿勢である。
「さあ、勇者様、こっちです!」
ローズが俺の手を取った。
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「どうぞ勇者様、どんどん食べて下さいね。」
目の前のテーブルには色鮮やかな料理が並ぶ。人数も4人と宴会というには小さかったが、それを言うのも無粋だろうと思った。
「おう、勇者様も飲むかい?」
赤ニートが缶ビールを差し出すので思わず手に取ってしまった。俺は享年19歳だったので酒類は飲んだことがない。ただの空き缶に入ったアルコールが魔法の水に見える。だが横に座ったローズがそれを取り上げる。
「私、エンマ様に勇者様は19歳ということを聞きました。あと勇者様の世界では20歳からしかお酒を飲めないそうですね?というわけで私が頂きます。」
ローズは言いながら缶を開ける。チェっと口を尖らせている俺を見て赤ニートは笑う。
「『19歳の勇者』ってのが語感もいいし、おまえがまだ未熟ってのが表れていていいと思うぞ。」
赤ニートの言葉にローズとローズの母も笑う。未熟という点は否定できなかったので俺は苦笑いをした。
そのあとが地獄であった。ローズは普段はいい娘なのに悪酔いするタイプだったのである。酔った勢いでさらに飲んでと、どんどん悪化していく一方だった(赤ニートが面白がってドンドン飲ませたせいもある)。俺も何度か絡まれたが、何とか脱出して、今現在家の外に居る。
「やあ、今回は世話になった。」
ふうと一息吐いているとローズの母がやって来た。
「普段はいい子なんだけどね、酒が入るとダメなんだ。許してやってくれ。」
ローズの母の言葉に「いえいえ」と返す。まあ、人間誰にも欠点ってものがあるだけだ。
「『勇者じゃなかった』って聞いた時は斬り捨ててやろうと思ったが、どうやら悪い人間ではなかったようだ。」
というローズの母の女騎士ジョークにも「いえいえ」と返す。
「あの子のことをよろしく頼む。」
ローズの母が握手を求めてきたので、それに応じる。
「はい、こちらこそお願いします。」
ローズの母は俺の言葉を聞くと一度笑い家の中に戻って行った。
ローズと赤ニートの馬鹿騒ぎは日付が変わるまで続いた。




