10章-15 決戦前
「ははっ、メシウマ!!」
隣の部屋のオークはビール缶片手につまみを食いながら大声で笑いやがった。
「おまえ、他人事と思って笑いやがって…。この人でなしが。」
「俺、オークだし。」
俺が睨んでもオークは全く動じず、一人の晩酌を続けている。何で俺がこのお隣さんの部屋に居るかと言うと、俺の部屋でランスがもう眠っていたからである。こういうことは他人に話したくなるものだが、流石に気持ちよさそうに寝ている幼女を起こすわけにもいかず、こうやってお隣のオークの部屋を訪ねたのだ。
「しかし、よく思い留まったな、あの娘は良い子過ぎるからおまえの判断は正しいよ。オークである俺にも丁寧に接してくれる程のお人好しだからな。」
何か引っ掛かりのある言い方だった。俺が首を傾げる様子を見てオークは続ける。
「俺達罪人はもう死んでるから気にしてないのがほとんどだが、生きている移民はそうはいかないヤツも多い。オークとエルフはお互い嫌い合ってるってのが普通なんだよ。」
俺は生前の記憶を無くしているのでその辺は詳しくないのだが、それが常識らしい。確かに酒場やこの寮では囚人服のオークやエルフがよく肩を組んで酒を飲んでいる様子を目にするが、移民のオークやエルフが一緒に酒を飲んでいるのを見たことがない気がする。
「はあ、今日は本当に傷ついたわ、酒でも飲んで忘れたい。」
俺がビール缶を取ろうとするとオークが素早くそれをガードする。
「そんないい娘が飲んじゃダメって言ってるんだ、それくらい守れよ。」
ローズがここまで根回しをしていると思わなかった。俺は転生して二十歳を迎えなければ酒も飲めないらしい。
「ほれ、気が済んだなら部屋に戻ってさっさと寝ろよ。明日は大事な日なんだろ?」
このオークの反応にはイラっとさせられたが、確かに誰かに話したことで少し気分が収まった。こいつの言う通り明日は大事な日である、寝坊ってのは許されないだろう。床に寝転がっていた俺は立ち上がりそのまま扉に手を掛ける。
「それじゃ今日は帰るよ。」
「ああ、明日は何か奢れよ。」
お隣のオークは笑って手を振りながら見送ってくれた。俺はそれに手を振り返し、部屋を出た。
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ブレーメンは鞘に入った自分の愛刀を手に取る。こいつを持つのは久しぶりだが、やっぱりこっちの方がしっくりくる。
ブレーメンはよく剣をダメにしてしまう。それは彼の激しい剣術や体の動きに武器の耐久性が保たないからだ。だからこの前武器が壊れ、少女が勇者を庇って死ぬのは計算の内であった。こうでもしないとあんな優柔不断なヤツは決心しないからだ。おかげ様で今のところ全ては計算通りである。実際はあんな勇者ではなく他のヤツでもよかったが、騙しやすそうな顔をしていたからあいつを選んだだけだ。
そしてこの刀は何があっても「絶対壊れない」という特性を持った武器である。鍛冶にも魔法にも全く詳しくないので分からないが、そういったものだと言われたものだ。明日は全てが決まる大事な日だ、出し惜しみは無しってことである。抜刀許可が無いため鞘に入れたまま振り回すことになるが、それでもその辺の脆い剣よりは幾つかマシというものだ。
「さて、明日が楽しみだな。」
ブレーメンは煙草に火を点け窓にまたがった。空には多くの星が輝いており、満月がこの地獄を照らしていた。




