10章-14 決戦前
俺はローズとローズの家に向かって歩いていた。娯楽街から離れていくほどすれ違う人が減って行く。ローズは笑いながらよその人が聞いたら他愛のないことを話してくれた。あのあとランスと村の作業を手伝いに行ったこと、その際に四つ葉のクローバーを見つけたこと、村のおばあちゃんと話したこと。本当に楽しかった、気が付いたらローズの家の前に着いていた。
「勇者様、どうぞ上がって下さい。」
ローズが家の扉を開けようとする。俺はローズに聞いておくべきことがあった。
「ローズ、俺は本当は勇者でもないのに、どうして勇者と呼んでくれるんだ?」
ローズの動きが少し止まる。先程までと雰囲気が違う話をしたからだろうか、少し驚いたような顔をする。そしてまたローズは俺に笑顔を向ける。
「勇者様は勇者様ですよ。誰が何と言おうと私にとっては勇者様なんです。ドラゴンに怯えながらも薬草を取って来てくれる、自分の命を顧みず女の子を助ける、そんな素晴らしい勇者様なんです。」
「そんな大層なもんかね。」
「もっと自信持ってください。」
ローズは「ほら」と俺の手を取る。そんな仕草に一瞬ドキっとしてしまう。そしてもう一つ聞くべきことがある。
「やっぱりローズは賞金を貰ったら元の世界に帰ってしまうのか?」
ローズはこの地獄に出稼ぎに来た移民である。何かしらでお金が必要になり母とこの世界に来たのだろう。
「私の妹は病気でお金が必要なんです。今は父が近くに付いていてくれていますが、なるべく早くお金を持って行きたいです。」
ローズは少し申し訳なさそうに目を逸らす。そんな大変な境遇にあったのに俺達にわざわざ付き合ってくれていたのか。
「そうか、それは寂しくなるな。」
俺も気まずくなって目を逸らす。生前の記憶は全て失ったが、この俺という人間がどうして早く転生したがっていたのか、その動機は覚えている。早く転生して女の子と付き合いたいという理由だけでこの少女を振り回してしまったのだ。
「はい、出来れば勇者様達とまだ一緒に働くのもいいなと思っているんですが…。」
ふとローズの方を見ると涙を流していた。この娘はこんな屑みたいな人間の俺との別れも悲しんでくれる、そう思うと思わず言葉に出そうになる。
「ローズ、もしよかったら俺とこの地獄で…。」
俺はそこで言葉を止める。「俺とこの地獄で」、何だ?この娘は元々そんなつもりでは無かっただろう。そして彼女は優しい子だ、こんなことを口にしてしまってはずっと気にしてしまうだろう。だから俺は絶対にこの先を口にしてはいけない。彼女は俺達と違い生きた移民である。俺がその旅を止めて良い訳が無い。彼女は俺達死者と別れ、進むべき存在なのだ。。
「ランスが部屋で待っているだろうし、俺は帰ることにするよ。それじゃ、明日は頑張ろうな。」
俺はローズに背中を向け走り出す。こんなに切ないものなのか、失恋というやつは。




