10章-13 決戦前
女は重い金属扉を開き、シェルターに逃げ込んだ。
「どうして、どうしてこんなことに…。」
女は奴隷商であった。ただ行く所のない子供達を捕まえては売り払っただけだ。魔術師や血の匂いのする犯罪者に売ったが、あとはどうなったかは知らない。踏み込んではいけない領域だからだ、女が知るはずもない。いつものように自分の経営している酒屋で飲んでいたところ、奴の襲撃を受けた。額に傷の入った片目の隠れた男、見えた左目は赤く染まっていた。間違いない、あいつもこちら側の人間だ。危機を察知した女は地下室に走り、こんな時のために用意しておいたシェルターに逃げ込んだ。こいつは強化の呪いが掛けられており、何があろうと壊れることは無い。そして唯一の扉も声紋認証で開く扉である、女の美しい歌声を聞かせなければ開かない作りになっている。つまりここに彼女が居る限りだれも扉を開けられないのだ。
ドゴーン
物凄い音が響いた。男が扉に何かしたようである。しかし、このシェルターは先程述べたように何があっても壊れることは無い。女はその音に一瞬驚いたが、扉が無事なことを確認すると胸をなでおろした。
ガチャ
扉が何故か開いた。彼女の声が無いと開かない扉であったはずである、そんな扉がいとも簡単に開けられたのだ。
「あっあ。」
女は後ずさるがここはシェルターの中である、逃げられるはずがない。
「安心しろ、痛みは一瞬だ。」
男の周りに浮いていた三つの大砲の口が一斉に女に向けられる。そしてシェルター内に轟音が響いた。
「声紋扉か、厄介なものを。」
男は大砲の一つを扉に向ける。発射をしたが、扉には傷一つ入らず、逆に弾が粉砕された。
「やっぱり、無駄か。」
男は直前に女が扉に掛けていた声を思い出す。
「んん、あーあー。」
喉の調子を整える。全く女も運がない。声紋じゃなく指紋とかにしておけば良かったものを。直後男の口から女性のような高い声が発される。それは先程ここに逃げ込んだ女のものとまるで同じであった。
ガチャ
鍵が開く音がした。男は喉の調子を戻す。そして扉を開けた。そこには腰を抜かして動けない女が居た。男は三つの大砲を女に向ける。
「安心しろ、痛みは一瞬だ。」
男は女に向けて大砲を集中砲火した。女だったものがあちこちに飛び散り、シェルター内を赤く染めた。
男がその場を去ろうとした時である、自分の右手が透明になっているのに気が付いた。こんなタイミングにか、男は苦笑する。
「これが最後のチャンスかな。」
それは世界を跨ぐ程の大魔法であった。男はそれに相乗りし、召喚元の世界を目指す。男の顔に亀裂が入る。今度こそ成功させてみせる、これが最後のチャンスだ。少しずつ薄くなっていた男の姿が完全に消えた。




