10章-11 決戦前
ローズの母は金色の長髪を一つに束ね、台所で料理をしようとした時だった。誰かが扉をノックした。ローズの母が扉を開けると、そこに立っていたのは顔が黒い長髪で隠れた傷だらけの男だった。
「赤ニート、いやライオンマスクさんだったか。」
「呼び方はどちらでも構わん。今日は話があって来た。」
以前はヘラヘラした男であったが、今は雰囲気が変わっていた。髪に隠れて直接は見えないが、鋭い視線を感じる。ローズの母は違和感を感じながら中に案内した。
「ローズは居ないのか。」
赤ニートは部屋を見渡した。ローズの母は赤ニートに椅子に座るように勧める。
「ああ、明日に向けての道具を買いに行ったよ。魔王城に攻め込むと聞いている。」
「彼女の母として、そんな危険なことを許せるのか?」
赤ニートはローズの母の言葉に疑問を持った様だった。
「あんな腕っぷしの騎士様と娘の為にと決心してくれた勇者様が居るんだ、止めることは出来ないだろう。」
ローズの母は溜息を吐く。言葉ではそう言っているが実際は心配である。ローズ達は移民であり、この地獄での死は許されていない存在である。心配しない方が無理な話であろう。赤ニートはテーブルの上に大きな布袋を置く。中には大量の貴金属や宝石が入っていた。
「悪いことは言わん、これだけあれば暫く生活は楽できるだろう。これを持って元居た世界に帰れ。」
「これはどういうことだ?」
ローズの母は意味が分からなかった。何故この男がこれほど娘を心配しているのか、その理由が分からない。
「移民は出稼ぎにこの地獄に来るものと聞いた。これだけあれば家族を養うこともできるだろう。」
「娘を心配してくれるのは嬉しい。だが何故貴方がここまでするのか私には理解できない。」
「…。」
赤ニートは無言になった。理由は言えないということか。
「娘は金銭的な目的もあるが、勇者様達を手助けしたいらしい。私がそんな娘の決心を否定できると思うか?」
ローズはローズの母に明日に向けての決意を話していた。たくさんのお金が手に入るということもあるが、勇者の罪の返済の力になりたいこと、この地獄の平和を守りたいこと。我が子ながらお人好し過ぎるとは思ったが、そんな決意を無駄にすることは許されないと思う。赤ニートはそんなローズの母を見て椅子から立ち上がった。
「分かった、それなら報酬を受け取ったらこれも一緒に持ってすぐにこの世界から逃げろ。それ以上の滞在は危険だ。いいな?」
赤ニートはローズの母の返事を待たずに部屋から出て行った。一体この地獄で何が起きようとしているのか、そして結局この男は何故ここまで娘のことを気にしてくれているのか、ローズの母には全く理解できなかった。沸騰したヤカンの音だけが部屋に鳴り響く。




