10章-9 決戦前
軍服の男達に一列に並ばされる。そして一番偉そうな白髭の爺さんが点呼を取り始めた。しかし面倒になったのか名簿を投げ捨てた。
「おまえらには横文字と番号で名前が付けられているが、覚えるのが面倒だ。よって儂が一人一人に名をくれてやろう。」
爺さんは目の前にいた少年を蹴り倒す。何か気に食わなかったらしい。その少年には悪いが誰もそれを助けようとしない。そしてその少年は頭を潰されて死んだ。脳が潰されたというのに少しの間腕や脚が動いていた光景は今でも覚えている。
「おまえらは雑草だ。全く命に価値がないその辺の雑草と同じだ。よって雑草の種類で名前を付ける。」
爺さんは足元に生えていた草を踏みつける。そして一人一人に適当に草の名前を付けて回った。
「おまえは『露草』だ。いいな?」
爺さんが目の前で止まってこちらに告げる。拒否権が与えられていないため頭を縦に振るしかない。全員に名前を付け終わると爺さんは機嫌が良さげだった。
「それじゃ雑草共、早速任務をくれてやる。テキパキと動けよ、『量産型』。」
爺さんの合図で全員走り出した。月の光に照らされた彼らの顔はまるで鏡を見ているかのように同じであった。
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少女は足でオールを漕ぎながら、小舟でやっと鎖の上にまで着いた。あとはウォータースライダーのような鎖の周りの水流が勝手に地獄まで流してくれるだろう。やっと一息吐けるというものだ。
「今回の出張は散々だったな。」
少女は今は無い右腕の方を見る。まさか腕一本捨てる羽目になろうとは思ってもいなかった。おかげ様でこうやって地獄に戻るのが二日くらい遅れている。
「ただ水流に流されるだけだからあと一日か。」
騎士長にはきっと腕を奪われたのに加え、帰還が遅れただの文句を言われるのだろう。はあ、このまま地獄がなくなり騎士長が居なくなれば気が楽なんだが。不満だらけの少女は睡魔に襲われた。原因は簡単、ここ数日寝ていなかったからだ。だが、もう小舟は水流に乗りあとは勝手に地獄に流されるのである、寝ていても構わないだろう。少女は大きい欠伸をし、舟の上で横になる。見上げると何処までも続く永遠の蒼があった。
「こうやってゆっくりと空を眺めるのは何時ぶりかね。」
何の自由も許されなかった雑草の時代くらいだったであろうか。思い出せば遠くまで来たものだ。少女の視界が少しずつ暗くなる。そうして意識は空に飲まれていった。




