10章-8 決戦前
「ふう。」
エンマ大王は大机に黒い本を置き、そのまま椅子に座る。本日の新入りの罪の量を測り、それを言い渡し終えたばかりだ。誰かさんが大暴れしているせいか、ここ最近この地獄に送られてくる罪人の量が増えていた。そのため最近のエンマ大王は疲れ気味である。
『この地獄』と表現したのは勿論天界には他にも地獄が存在しており、分担して罪人の処理をしているのだ。特に地獄の中でもここが一番優良だと言われている。と言うのも他の地獄は基本的にエンマ大王が憂さ晴らしと言わんばかり罪人達を拷問しているからである。中には罪人達の反乱によって潰れた地獄もあるらしい。
「お疲れ様でした、エンマ様。」
エンマ大王の護衛役である黒髪長髪の女性、シルクがココアをカップに入れて持って来た。右袖がやけに大きい特徴的な民族衣装を着ている。歩く度鎖のようなものがぶつかり合ったような音がする。
「ありがとう、シルク。」
そんな金属音を気にせずエンマ大王はココアを受け取り一息吐く。今から少し遅めの夕飯を取り、また明日来るであろう罪人達の処理の準備をしなければならない。人間なら過労死しかねないが、この少女にはそんな心配は無用である。紫色の長髪、猫のような大きな耳と尻尾から分かる通り彼女は人間ではない。
「本日はシチューみたいですよ。」
シルクはエンマ大王がココアを飲み終えたのを確認するとそのカップを回収する。「そう」とエンマ大王は立ち上がる。
「貴方はこうして働いているのにブレーメンは一体何をしているのかしらね。まあ、あんな胡散臭いのは近くに居ないのが一番だけど。」
ブレーメンというのはエンマ大王の護衛役の一人である。古い麦わら帽子を被り、ダメージ加工のジージャンを着ている、茶色の長髪を後ろで纏めたおっさんだ。喫煙者で、嗅覚の敏感なエンマ大王はその点でも嫌っている。
「忙しくて忘れていたけど、そろそろ姉さんに動きがありそうね。」
エンマ大王は窓から外を見る。暗くて何も見えないが、チグリスの潜む魔王城から魔物の気配を感じる。こんなに離れているのに気配を感じるのだ、上位の魔物が大量に居ると考えていいだろう。
「私達騎士団が居るのです、エンマ様は何も心配する必要はありません。」
「ソラトが居るのよ?何も心配してないわ。」
ここで騎士団長の名前が出るあたり、何だかんだと信用を寄せているらしい。本人の前で言ってやったら喜ぶであろうに。シルクは少し騎士長のことを不憫に思った。




