10章-7 決戦前
「まあ、こんなものかね。」
ブレーメンが木の棒を片手に汗を拭いた。もう日が沈み始めていた。情けないことにただの木の棒相手に俺の大斧は簡単に受け流され、ブレーメンに刃が届くことは無かった。しかも受け流す度に隙だらけになった俺の体を殴るもんだから体中が痛い。
「使い始めた時よりはしっくり来てるんじゃないか?」
「おかげ様でな。」
俺はブレーメンを睨みつける。それに対しブレーメンは両手を上げて「あー、怖い怖い」とこちらを小馬鹿にした。
「おまえの振りに腰が入っていないのが悪い。あと思いっきり振ることに夢中になり過ぎだ。いいか?『周りを見ながら全力で触れ』。」
「夢中になり過ぎちゃいけないのに全力で振るのか。どっちなんだよ?」
ブレーメンの言ってることはめちゃくちゃだ、矛盾している。とにかく剣を持ち始めた俺には不可能なことであろう。
「明日が決戦だというのにそんな気持ちでどうするんだ、これだからゆとりってヤツは。」
ブレーメンはまたぶつくさと文句を言い始めた。うるさいな、余計なお世話だ、そう思った時だった。俺はあることに気が付いた。
「ちょっと待て、おっさん今何て言った?」
「これだからゆとりってヤツは。」
「もっと前だよ。」
「ああ?明日が決戦だと言ったんだよ。」
ブレーメンがこちらを「大丈夫か?」と言わんばかりの眼で見て来る。
「初耳だよ!!何でそれを早く言わない!?」
俺は思わず飛び上がりブレーメンに詰め寄る。ブレーメンは頭を傾げる。
「あれ?言っていなかったか?」
「聞いてない!!」
明日が決戦だというのに俺は今日パーティメンバーであるローズやランスに会っていない。いや、この稽古が無駄だと言いたい訳でもないが、決戦前夜というものはパーティメンバーと次の日に向けての意気込みとかを話すものだろう。
「ローズやランスにはちゃんと伝えてあるだろうな?」
「ああ、嬢ちゃん達には伝えたはずだ、今頃武器の手入れでもしてるんじゃないか?」
俺はブレーメンをそっちのけでローズの家の方に向かって走りだした。
明日無事に懸賞首を捕まえることに成功すれば俺達は一人一億の懸賞金を貰えることになる。出稼ぎに来ているローズはそのあと元の世界に帰ってしまうかもしれない。明日の成功を願うのは当然だが、そう考えると複雑な気持ちになってしまった。後悔する前に俺はこの気持ちをローズに伝えたい。俺は全速力でひたすら走った。




