10章-5 決戦前
「おいおい、どこに向かうんだよ。」
俺は今ブレーメンに連れられて移動していた。この方角は村の方か?
「剣を振るってのはカッコイイよな?」
俺の言葉を無視してブレーメンは言った。以前ブレーメンが繰り出した剣技にも見惚れてしまったし。
「そりゃあ憧れるよな。あんなに格好良く振れたらと思うよ。」
「それが間違いなんだよ、坊主。」
ブレーメンは腰の剣を抜く。おっさんが持っているのは何も変哲の無いただの剣であった。
「いいか?剣というのは技量が問われる武器なんだよ。物凄く重い剣であったら違うかもしれないが、基本は筋力より技術の方が必要な武器だ。そしておまえは剣を振り始めて何日だ?そんなおまえにそんな短い剣を使える訳ないだろうが。」
ブレーメンはボロクソに言ってくれた。言い返してやりたかったが、確かに身体能力は上がったが、それに応じて戦闘力が上がったとは言い難い。実際赤ニートには軽く受け流されてしまったし。
「知識も技量も無くて筋力任せにぶん回すなら丸太とかその辺の木の棒を使った方がマシだぞ。」
要するに技量も知識も無い俺は重たい武器を振り回して相手を潰す方がいいって話か。だが、それなら何故村に向かっているのか。
「武器なら娯楽街の方に行った方がいいんじゃないか?」
「村にもいいものがあっただろう?そう、脳筋にふさわしい物が。」
勿体ぶった言い方であった。これは目的地に着くまで何であるか言う気が無いな。それが何であるか気になったが、俺は大人しくブレーメンに付いて行くことにした。
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娯楽街の主キクノは呪符を作っていた。黒く輝く長髪の麗人が筆を走らせているのはとても絵になりそうな光景であった。実際そんな彼女を見て足を止めた者も何人か居た。
どこかの世界、国には『言霊』という言葉があるらしいが、実際に『言葉』には力がある。魔法の発動に呪文が必要なのは、言葉の力を使い魔力を練り上げ魔法として発現させるためである。魔法使いの中には呪文を使わずに魔法を発動する化け物もいるらしいが基本的なロジックは今の通りだ。キクノが今書いている呪符も同じような仕組みである。呪符には言葉が書いてあり、それに魔力を通すとその文字に対応した現象を起こすものだ。そのため呪符は使い捨てではあるものの魔力を通しさえすれば魔法の知識がなくても使うことができる。
「キクノさん?大丈夫ですか?」
筆を止めていたキクノに気付いた武器屋のオークが声を掛けた。
「ああ、気にするな。それにしても今日もいい天気だねえ。」
「?」
周りのオーク達はキクノの言葉の意味を理解できなかった。とりあえず「そうですね。」と返している様だった。
キクノは娯楽が大好きだ。楽しいことが大好きだ。飽きるまでずっと同じことを続ける。この商売も娯楽気分で始めたことである。要は何かと言うとこんな平和な世界で商売をすることに飽きてしまったのだった。
「はあ、何か面白いことは無いものかね。」
キクノは周りのオーク達に聞こえないように溜息を吐いた。何かこう命を燃やしてハラハラできることをしたいものだ。そんな彼女に近づく影が一つ。そして彼女の願いは叶えられることとなる。




