10章-4 決戦前
赤ニートはいつも通り洞窟から労働組合が籠っている魔王城を観察していた。今日は一段と出入りしている罪人やミノタウロスが多い気がする。キングオークのアトラス以外の体が大きい罪人も赤ニートの槍を防いだ鎧を身に付けていた。
「臨戦態勢て感じか。」
赤ニートが一旦ダンジョンから抜けようとした時である。洞窟の中で掠れたような笑い声が響いた。そして赤ニートの前に禍々しい黒い渦が現れた。見た感じ転移魔法らしい。しかも別の世界に飛ばす程の力を持った規格外な物のようである。
『獅子よ、こんな退屈な所にいつまで引き籠っているつもりだ。』
聞き覚えのある声が響いた。赤ニートは身構える。
『いい眼だ。まるで血に飢えている狼のよう…。おっと『狼』は禁句だったか。』
どうやら赤ニート以外にも声が聞こえているらしい。数人の罪人が武器を持ってこちらに歩いて来ている。
「悪いが今おまえの相手をしている余裕はないぞ。何を言おうが俺はおまえの召喚には応じない。」
赤ニートは渦の返事を待つことなく洞窟の中を走った。一歩一歩踏み出す度に加速魔法をかけ一気に洞窟を駆け抜ける。体中から筋肉の悲鳴が聞こえるが知ったことではない。それよりも『今日開戦させてはならない』というのが重要であった。そのためにも相手側を絶対に刺激してはいけない。赤ニートはそのまま誰にも見つからず洞窟から抜け出すことに成功したのだった。
「あー、疲れた。」
ウサギ耳のゴスロリ服の少女が古ぼけた玉座に座る。この少女、チグリスはさっきまで明日に向けての準備をしていた。なぜ明日かというと彼女が作成したミノタウロスの数が今日で百を超えたからだ。百を超えたらそのミノタウロスと罪人共を出撃させる、つまり開戦させると決めていた。これだけの猶予を与えたのにエンマ大王の座を明け渡さなかったエンマ大王が悪いのだ、地獄の住人達には悪いが現エンマ大王を恨んでもらおう。
「疲れたと言っているの。肩もみも出来ないの?」
チグリスの言葉を聞き、近くにいた囚人服のオークが玉座に寄って行った。それを見ていた小太りの貴族がそれを追い払う。
「しっし、貴様のような小汚い者がチグリス様に触れるとは何とも恐れ多い。そういう訳で私がおもみしますね。」
小太りの貴族はチグリスの肩をもみ始める。チグリスは気持ちよさそうな顔をして気の抜けたような声を出す。リーダー格の貴族もチグリスの機嫌を取るべくチグリスの履いていたブーツを脱がせ、足裏マッサージをし始める。もう一人の背の高い貴族は料理が得意なので明日の全員分の朝食を作っているところだ。貴族達はチグリスに胡麻をするのに必死である。もし今のエンマ大王を討つことに成功すれば、この少女が次のエンマ大王としてここ地獄の頂点に君臨することになる。今印象を良くしていれば出世コースは間違いないからだ。
「貴方達のこと、使えない三馬鹿トリオと思っていたけど、それは間違いだったみたいね。」
チグリスはとろけそうな表情をしている。マッサージの効果が予想以上に大きかったようだ。ミノタウロス百体、しかも漏れなくライオンマスクの槍すら弾く鎧を装備させている。この地獄はもう貰ったな、リーダー格の貴族と小太りの貴族もチグリスに合わせて笑った。




