10章-3 決戦前
「おい、起きろ、坊主。」
どうやら誰かが俺に声を掛けているらしい。この煙草臭い匂い、その呼び方、おそらくブレーメンであろう。目を開けるとやはりそこには麦わら帽の胡散臭いおっさんが立っていた。
「ダルイ。」
刻印が体中の傷を癒すのに力を回しているのか体が重い。あと二度寝したのがいけなかった、起きるのがしんどい。
「起きろと言ってるんだ、さっさと立て。」
ボーっとしていたらブレーメンはあろうことか俺の頭に足を乗せて来たのである。硬い革靴でグリグリされているのである、かなり痛い。
「痛っ!?おっさんふざけるな!」
俺はあまりの痛さに跳び起きた。涙目の俺を見ておっさんはニヤニヤと笑う。
「お、目が覚めたようだな。」
「おかげさまでな。もっと起こし方があるだろうが。」
「俺が騎士候補生だった頃は叩き起こされたもんだがね。これが平和ボケか、それとも『ゆとり』ってヤツかね。」
俺が靴で踏まれたところを押さえている横で、おっさんは呑気に煙草に火を点けていた。こいつ好き放題言いやがって。
「体中傷だらけじゃないか。もしかしてそこの神父にでも〆られたか?」
教会の入り口で椅子に座っている神父様がこちらに気付いた。そしていつものように笑顔を見せる。俺はそんな神父様に苦笑いで返す。非常に気まずい。
「色々あったんだよ、色々な。」
ゴロツキを相手にして体中に無理を掛け過ぎ体中から出血、赤ニート相手に無理してまたもや体中から血が噴き出し、神父様にはビームで貫かれた。あれ?俺、力を手に入れたはずなのに弱いままじゃないか?
「おっさんがそんなおまえのために稽古を付けてやろうって訳だ、どうせ暇なんだろう?」
不安が表情に出たのか、ブレーメンは俺の方を見てまた笑う。こんな胡散臭いヤツでも一応騎士であり、俺はその高い戦闘力を実際に目にしている。こいつはミノタウロスを一瞬で小間切れの肉塊に変えてしまったのである、そんなヤツが稽古を付けてくれると言っている。得る物は多いだろう。しかし、
「おいおい、露骨に嫌そうな顔をするなよ。」
またも表情に出てしまったようだ。実際こんなヤツに教わりたくないが、これ以上パーティメンバーのローズやランスに迷惑を掛けてはいけないだろう。
「それじゃ移動するか、まずは得物の調達からだな。」
「武器?ここにあるぞ?」
俺は腰にぶら下げていた短剣を指さす。ここ地獄に来てからずっと振り続けている短剣である。刀身は緑色に輝いており、ただの短剣では無いのは見て分かる物だ。
「いいから行くぞ。」
俺はさっさと移動を始めたブレーメンを追った。
勇者達がどこかに移動した時であった。騎士数人が教会を訪ねて来た。
「どうかなさったんですか?」
神父は立ち上がる。騎士達は地獄中を巡回しており人手が足りていないはずだ。そんな状況であるのにここを訪ねて来たのだ。何かが起きたのかもしれない。
「神父様、えっと、あの、それが…。」
一人の騎士がかなり動揺しており、まともに言葉を発せていなかった。それを見た他の騎士が代わりにと口を開く。
「聖女様と騎士狼仮面がこの地獄から姿を消しました。」




