10章-2 決戦前
「順調、順調。」
青いローブの老オークは鼻歌混じりでご機嫌である。暗い部屋で煙草を咥えながら薬草をすり鉢で擦っている。そして出来上がった怪しい粉を指に付け、それを舐めた。
「おおう、これは効けるのう。」
この老オーク、スネークは作った薬を実際に舐めて効能を調べる癖がある。蘇生が効く地獄ならではの方法である。それ以前にこの老オークは体が丈夫で死なないが。
「ふむ、この匂いは…。」
スネークは魔力の流れを察知した。魔力を感じる感覚は個々によって異なり、スネークは嗅覚でそれを認識している。
「このタイミングか、これは少し予想外じゃが…。」
スネークは煙草の煙を吐きながら笑う。ただでさえ皴まみれ顔がさらに皴まみれになった。
「まあ、よい。これはこれで楽しそうだ。さて、労働組合とエンマ側の罪人とどっちが勝つのか…。」
スネークは短くなった煙草を灰皿に擦り付け、次の煙草を出そうとする。しかし、箱の中にはもう煙草は残っていなかった。スネークは口笛を吹き鳴らす。
「ブレーメン、居るんじゃろ?」
「ペットじゃないんだ、その呼び方は辞めないか。」
スネークの後ろから麦わら帽子を被ったジーンズジャケットの男が現れた。その赤い目をスネークに向けながら新しい煙草を箱ごと投げる。
「本日のお勧めだとさ。」
「ふむ、娯楽街が出来てから煙草の調達が楽でいいのう。」
スネークは早速箱を開け、新しい煙草を取り出す。ごにょごにょと呪文を唱え煙草に火を点け、そのまま咥える。
「何か起ころうとしているのか?作戦に支障は無いだろうな?」
「おまえら次第じゃよ。」
スネークは煙を吐きながらニヤニヤと笑った。
「最悪、こんな時にあんたに会うなんてね。」
銀髪の少女は狼の顔を被った銀の騎士、狼仮面を睨む。彼女が狼仮面を見る度に機嫌が悪くなるので、なるべく教会に彼女が居るであろう時間に巡回をしていたのだが、不幸にもこうして出くわしてしまった。
「こう機嫌が悪い時に限ってね、一発殴っていい?」
「おいおい、あんたは聖職者だろ。そんなおっかないことを口にするな。」
拳を構える少女をなだめる狼の顔を被った騎士。狼の被り物の出来がいいだけになかなかシュールな光景である。そんな見た目であるため少女には煽っているように見えたのかもしれない、少女の拳に力が入る。そんな時だった。
『聖女よ、再びの生に興味は無いかーー?』
重く低い声が響き渡る。その声を聞いた二人は身構える。何故なら、この声はーー。直後、聖女の目の前に黒い渦が出現した。禍々しい気配を放ち、これに飛び込んだらどうなるのか想像もつかない。
『興味があるのならその渦に飛び込んでくるがよいーー。』
「私もあんたに会いたかったわよ、この糞婆、糞爺!!」
頭に血の上った少女は渦に飛び込もうとする。
「馬鹿か、どう考えても罠だろうが!?」
狼仮面は少女を止めようとしたが間に合わなかった。この声を聞き、少し動揺してしまったからだ。狼仮面にとっても忌まわしい相手である、声を聞き、体中から冷や汗が流れ出て怯んでしまったのだ。この渦はどうやら召喚魔法のようだ。飛び込んで行った少女の姿が消える。
「面倒ばかり掛ける小娘め!」
狼仮面も少女を追って黒い渦に飛び込んだ。彼は彼女の死に関係していた。今度ばかりはこの少女の命は守らなければという責任感からの行動であった。狼仮面の姿も少しづつ薄れていき、少女のように姿が消えて行った。




