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勇者19歳  作者: 河野流
9章 地獄の大地
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ブレークタイム7 メイドは見た!再び

ユリはココアを飲みながらキッチンのテーブルに居た。目の前の席には黒い長髪の女性、シルクが背筋を伸ばして座っている。ずっとこちらを見て。

(ううぅ、気まずい。)

ユリは余りにも重い空気でここから逃げ出したかったが、今ミイラがゴミをまとめている。ゴミ捨てを頼まれているのでゴミ袋を受け取るまでここを離れる訳には…。

「あのー、シルクさんも飲みます?」

ユリは近くにあったココアの粉末の入った袋を手に取る。手を震わせながら新しいカップに粉末を入れ、そこにミルクを注ぐ。箸を一本取り出しグルグルと混ぜた後シルクの前に差し出す。

「ありがとうございます。」

シルクは表情一つ変えずにココアを飲み切るとテーブルの上に置いた。そしてまた二人の間に沈黙が続く。

(もしかして美味しくなかったのかな…。)

ただ粉末を溶かすだけである。不味くなる要因は一つもないと思うのだが…。

「そういえば最近クランさんを見かけませんね。」

とりあえず新しい話題を出してみる。ここの屋敷には、地獄の主であるエンマ大王、その使用人として雇われているミイラ、ユリ、キン、エンマ大王の護衛役であるブレーメン、シルクともう一人護衛役が居た。それがクランである。茶色のボブヘアーで言葉遣いも女性らしい可愛らしい人だ。ユリも同じ女性として羨ましく思っていた。ただ、浴場で出会ったりすると鼻血を噴いたりと変わったところもあったりするよく分からない人でもある。

「ああ、彼のことですか。」

「彼?」

「いえ、彼女のことですか。」

ユリが聞き返すとシルクは訂正した。少し焦っているようにも見えた。

「彼女は騎士長から仕事の依頼を受けて他の世界に行っています。そのうち帰って来るんじゃないですか?」

シルクが続けて説明した。気のせいだろうか、少し毒々しい言葉を吐いた気がする。そしてまた沈黙が訪れる。

(気まずい、どうしよう…。)

ユリがギブアップしそうになった時、ブレーメンがキッチンに入って来た。

「シルク、待ったか?あと一緒に居るのはユリのお嬢さんか。ちょいとこいつ借りてくぞ。」

ブレーメンはキッチンを去って行った。シルクは席から立ち上がると軽く会釈をし、その後を追って行った。普段は胡散臭く見えるブレーメンだが、今さっきは救世主に見えた。丁度ゴミをまとめ終わったらしいミイラがカウンターの裏から出て来る。

「ユリ、ゴミを頼んだぞ。」

「は、はい。」

ユリは手に持っていたカップの中のココアを飲み切ると、ゴミ袋を両手に持って外に出た。



ユリがゴミ出しを終えて戻って来た時である。暗い中庭にブレーメンとシルクが居た。

「それじゃこいつを頼むぞ。」

なんとなく見てはいけない場面の気がしたのでユリは物陰に隠れた。ブレーメンがシルクに何かを手渡した。シルクはそれを無言で受け取る。ブレーメンはそれを確認し、こちらに向かって歩き始めた。

「本当に上手く行くかな。」

いつも無表情なシルクが不安そうな声を出した。ブレーメンはそれを聞くと、またシルクの方に近づいて行った。そして彼女の頭を撫でる。

「ああ、俺が上手くやってやるとも。」

ブレーメンはシルクに笑顔を向ける。シルクはそれを見ると安心したのか屋敷に戻って行った。ユリの隠れた茂みの横を通って行ったが、気付かなかったようだった。ユリはその様子を見てふうと息を吐いた。

「盗み聞きは感心しないね、お嬢さん。」

声をする方を見たらブレーメンがすぐそばに立っていた。いつの間に近づいたのだろうか、ユリは驚き後ずさりする。

「いえ、盗み聞きするつもりじゃなかったんです。」

あたふたするユリをブレーメンはニヤニヤして見ていた。

「仕方ないな、ほれ、お嬢さんにも分けてやろう。」

ブレーメンはごそごそとポケットから小さな包みを出した。それをユリに手渡す。何だろうか、こんな夜にこそこそと手渡すようなものだ、危険なものに違いない。ユリは恐る恐る包みを開けた。するとそこには色とりどりの星みたいな小さな粒が沢山入っていた。

「綺麗!」

ユリが見惚れているところでブレーメンはその中の一粒を手に取る。そしてそれをユリの口の中に入れる。口の中に優しい甘さが広がった。

「『コンペイトウ』って珍しい菓子らしい、キクノに譲ってもらったんだ。エンマ様にバレると欲しいだの文句ばっかり言うからな、内緒だぞ?」

「はい、貴重な物をありがとうございます!」

ユリの元気のいい返事を聞くとブレーメンは笑顔で去って行った。どうやらシルクにも隠れて、この『コンペイトウ』を分けていたらしい。ユリはブレーメンのことを、この前も中庭でキンと隠れて話をしていたので胡散臭く思っていたが、それはどうやら思い違いだったようだ。ユリは包みをポケットの中に入れると屋敷の中に戻った。


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