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すみません。前話、主人公年齢変わってます。
「はぁ?…おい迷子のクソガキ。お前自分が何言ってるかわかってんのか?俺の名前を知ってやがるんだ。誰に喧嘩売ってるんだか理解してんのか??」
ランキング8位のネロ・エルレヴァインは小さな少女を威嚇する。
「はい!ネロ・エルレヴァインさん。私はあなたを倒して少しでも認めてもらわなければなりません。純粋な戦闘力ならランキング上位にも引けを取らないあなたを倒せば、きっと認めてもらえるはずです。」
ネロの威嚇に対して全く動じないその少女は下手に出ながらも自信に満ち溢れていた。
「まぁ…いいや。忙しいが急いでるわけじゃねぇ。それにお前、ただの迷子ってわけでもなさそうだしな。いいだろう。相手をしてやる。楽しませてくれよ?」
「ありがとうございます!では、参ります!」
そうしてランキング8位vs少女の戦いが始まった。
「……。」
「ありがとうございました!」
戦闘開始からわすが2分。
ネロ・エルレヴァイン地面に突っ伏していた。
「……てめぇ…何モンだ…。この世で精霊使いなんてあの第1位様しかしらねぇぞおい…。」
そう言われた少女ははっとしたように
「あっ!!申し訳ありません!名乗り忘れました!えへへ、いつも忘れちゃうんですよね…。私アイリス・クロイツェルと言います!…あの、私が勝ちということで大丈夫でしょうか?ネロさん本気ではなさそうでしたが…。」
「…てめぇも…本気でなんか戦ってなんていなかっただろうが…。」
確かにネロ・エルレヴァインは本気で戦ってなどいなかった。いや、違う。本気で戦えなかったのだ。
(アイリス・クロイツェル。聞いたことねぇぞ。そんなやつ。それに精霊魔法を使うだと?)
今にも意識を手放しそうなネロの頭の中にはたくさんの疑問で埋め尽くされていた。
一番に第8位である自分をたった2分で無力化。これが自分よりランキングの高い人物が起こしたことであれば不服だが理解はできる。
だが、目の前にいるのは自分より明らかに年下である華奢な少女。
さらに不可解なことはその少女が精霊魔法を使ったということだ。
精霊魔法は精霊を使役することで精霊から得られる魔力を己のそれとして使う魔法。
必然的に彼女は精霊使いとなるわけだが。
「??」
当の本人はキョトンとした顔を向けている。
「ごめんなさい…立てますか?私回復魔法は使えなくて…。一応結界貼っておきますね!ではではありがとうございました!」
そう言って立ち去るアイリスを見ながらネロ・エルレヴァインは意識を手放した。
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「ふんふふふふーん♪」
ランキング8位をわすが2分で無力化したアイリスは、サラビナに向かっていた。
「ねぇ。ゆきちゃん。私弟子にしてもらえるかなー?」
「アイリスちゃんなら大丈夫だよ!さっきみたいに強い人をコテンパンにできるアイリスちゃんなら!」
先ほどまで何もなかったところにアイリスが声をかけると、100cmにギリギリ届かないくらいの幼女が出現する。
ゆきと呼ばれたその幼女は服だけではなく、その素肌までもが真っ白であった。
「でもさ、もし断られちゃったらどうしよう…。私が今よりもっと強くなるにはあの方に弟子入りする以外にありえないよ?魔法学校だって私を今より強くすることなんてできないだろうし…。」
「うーん…。ゆきもお願いするからさ♪一緒にがんばろ!あっ、そうそう。魔法学校といえば、サラビナの学校からTOP10入りした人が出たんだって!すごいよね♪」
「ほんと!?大人よりも強いってすごい!私もはやくランカーになりたいなぁ」
「なんで年齢制限なんかあるんだろうね…。でもアイリスちゃんも11歳だし、あと1年だよ!さっき倒したのって8位の人だったんでしょ?私とアイリスちゃんなら1位だって夢じゃないよ!」
「あははー!でも1位は無理だよ。だって私の師匠になってくれるかもしれない方が1位なんだから。」
アイリスはゆきと呼ばれる幼女と談笑を交わしながらサラビナに向かう。
(私は来年、12歳になる…そうすれば大会に出場できるけど、学校に所属することはない私に出場権はない…。だとすると方法は一つ…。)
「門が見えてきたよ!アイリスちゃん。何買うんだっけ?賄賂?」
「人聞きが悪いよー…。ハルト様の好きなお米を差し入れで持って行くだけだよ…。」
(そう…なんとしてでも、どんな手を使ってでも弟子にしてもらう。前大会優勝者の推薦をもらうために…。)
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その夜、精霊界にある家の一室にハルトはいた。
「そろそろ、下降りなきゃなぁ。幾ら『精霊界所属』なんて言っても一応人間だし。今回はエリム連れてくか…」
「はい…ありがとうございます。ハルト様のお力になれるよう頑張りますね。」
「ああ、よろしく。ところでさっき伝えたこと何かわかったか?」
「はい…。その…アイリス様でよろしかったっけ…?彼女は間違いなく人間。ハルト様と同じだと思われます。それに…」
「なんだ?」
『水の精霊王』であるエリムは戦闘能力こそ低いものの、索敵やサポートが非常に長けている。
「残った魔力のあの感じ…。もしかしたら精霊魔法使いかもしれません。」
「なんだと?…いや、この世界でマトモでいられるなら精霊魔法が使えてもおかしくはないか…。」
「はい。なんの精霊を使役しているかまではわかりませんが、おそらく…。」
「そうか、明日色々聞き出すことが増えたな。」
隣には、私も混ぜろーと喚き散らすサーシャがいるのだが、2人はこれを完全にスルー。
「ところでハルト様、一つお聞きしたいことが。」
「なんだ?」
サーシャよりも表情に浮き沈みがないエリムであったが、今ばかりは少しムスッとしているようにみえる。
「また、女ですか?サーシャだけでもいらないというのに。」
ぷくぅと頬を膨らませるエリムは納得いかないといったような表情を浮かべハルトに抗議する。
「おいおい、確かにサーシャは邪魔くさいが「ハルトのばかぁぁっ!」……ほんの少しだけ存在感が大きいが、同じ仲間じゃないか。」
ですが…と続けるエリムにハルトは叫ぶサーシャ簡単に躱しつつ
「それに俺の戦いはお前ら2人がいないと成り立たない。頼りにしてるからな」
ぽんぽんと頭を軽く叩きエリムをなだめる。
これが彼女には効果抜群だったようでエリムは「あうあう…」と顔を赤くして下を向いている。
感情をあまり顔に出さないエリムも今はわかりやすい顔だ。
「もぅ…ずるいです。」
「ん?なんかいったか?」
「なんでもありませんよ。」
それからしばらくして。
「俺さぁ、学校いってみたいんだよね。」
「…急にどうしたんですか?」
反応したのはエリムだ。
「いやあのさ、俺ってずっと精霊界にいるじゃん?確かに俺は強いよ。ランキングだって1位だ。
けどさぁ…世界の常識とかなんも知らない…」
「いーじゃんハルトぉ。ずっと私とここで暮らしましょう?」
「そうですよハルト様。わざわざそんなところに行く必要などありません。私がハルト様を一生お世話するのですから」
「いやいやいやいやいや。ちゃんと理由もあるんだよ。前回の大会優勝後、貰った賞金で美味いもの食って回ろうかと思ったんだけど、お金の価値がよくわからなくてとりあえず全部出したら店員困らせた…」
「「ハルト(様)…」」
「その賞金あれば一国変えてもおかしくないですよ。」
「え、そうなのか?国買おうかなぁ…」
あまりの世間知らずに呆れるサーシャとエリムであったが、さらに突き抜けた発言をするハルトに、2人は余計なことを言ってしまったと後悔するのであった。
「まぁ、他にもいろいろあるんだけどさ、やっぱ行きたいじゃん。青春したいじゃん。」
「でもでもハルトぉ、学校って試験とか必要なんじゃなかったっけ?」
「いやー、大丈夫だろ。だってランキング1位だぜ?精霊魔法さえ使わなきゃ身バレもしないって」
「では、大会はどうするのですか?ランキング1位がいないなんて前代未聞ですよ」
「あー、そうだな。ちょっと待ってろ。」
そう言うとハルトの魔法陣が浮き上がり、すぐに真っ黒な衣装で覆われた。顔すら見ることができない。」
「30秒で帰る」
それだけ言い残しハルトはその場から消える。
状況が理解できないサーシャとエリムは顔を見合わせるがなんの解決にも至らなかった。
「ただいま。」
そして15秒も経たないうちに帰ってきたハルトは
「1位やめてきた。これで問題ないだろ?」