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「アルバ(=暁)」
エーティルは生まれたばかりの我が子を腕に抱きあげ
そう呼びかけた。
瞳もまだ開かないその赤子は、
母の金髪よりも赤味が混じった
綺麗な朱金の髪を持っていた。
「この子の名前は『アルバ』にします。
全ての夜明けに、暁になりますように・・・・・。」
赤子は、母の言葉に焦点が合ってないながらも
涙をいっぱい溜めた
アクアブルーの瞳を開けて一心に母を見つめていた。
少年『アルバ』は、母に、周りの人達に愛されてスクスクと育った。
「ねえ・・・・シルフ、お前は僕の父が
誰なのか知っているのでしょう?・・・・どうして教えてくれないの?」
知性を感じさせる落ち着いたアクアブルーの瞳で
風の精霊シルフを見つめる。
「・・・・・・母様は時々悲しそうな顔をするんだ
記憶を失っても心の奥底で父様を求めてるんだと思う。
でも・・・それで居て何処かその記憶に怯えているんだ。
僕には分かる。」
俯くアルバの髪を慰めるように風が撫ぜていく。
「僕は、母様に何も出来ないのかな・・・・。」
時々見せる母の寂しげで苦しそうな表情と
母に言い寄ってくる領主が、アルバの悩みだった。
「父様が居てくれたら全てが上手くいくのに」
アルバの小さな手では如何する事も出来なくてただ
出来るだけ母に寂しい想いをさせないように
出来るだけ傍に居て笑って見せたり
「大好きだよ」と言って上げる事しか出来なかった。
始めは幼いアルバを手懐けて母、エーティルを
手に入れようとしていた領主も
穏やかで大人しい癖に
けして領主に懐かないアルバが徐々に疎ましくなってきた。
そんな中、アルバが領主の家で代々守られてきた聖獣を
逃がしてしまうと言う事件が起きた。
アルバにはまったく身に覚えの無い事だったが、
幼いとはいえ、その責任をとって、
聖獣を捕らえてこなければ
アルバの周りの者を処刑するという事になってしまい、
アルバは、小さな短剣と麻の服、
そして少しのパンと水だけ与えられて旅に送り出された。
アルバは、まだ12歳だった。