番外編 (想いだけを)別れの時、アルバ誕生前
~想いだけを~
「・・・・アイシテル」
風よ・・・この言葉を届けておくれ
瞳を閉じると、彼女の微笑が見えた。
重ねた日々、
傍に居なくてもそれがあるから
君がくれた愛しい気持ち
君が教えてくれた愛し、愛するということ
シルクは、気を失ったルージュを強く強く抱きしめた。
心が通じ合ったと思ったのはほんの少しだけ前。
あの時、ルージュは、少し頬を染めながら恥ずかしそうにシルクの腕の中に居た。
「好きだよ・・・・・・ごめんね、ルージュ。」
ハタハタとルージュの白い頬にシルクの瞳から零れた涙が落ちる。
ずっとずっと好きだよ、愛しいルージュ。
「・・・・だれか・・・・」
掠れる声で人を呼ぶ。
「・・・ルージュを、つ・・連れて行きなさい。」
本当は、離れたくないでも、
「・・・・ルージュ、さようなら・・・・・・。」
君の哀しみ、苦しみを君の中から消し去ってやる事しか
私にはもう出来ない。
そっと、ルージュの唇に最後の口付けをする。
君がいつか微笑んでくれるのなら私は何だってしてみせる。
君を手放す事さえ私はしてみせる。
誰かが、ルージュを連れてゆく気配がして、
ルージュの気配が遠ざかっていった。
例え君の中に私が無くなったとしても
私の中に君があるから・・・。
目覚めたルージュは、首を傾げた。
何もかもが分からなかった。
ただ、優しい人達が、弱っていたルージュの世話を焼いてくれた。
「・・・・あ・・・う・・・」
掠れたルージュの声にならない声に、子供のような無垢な表情に
周りの人達が涙した。
「・・・・・姫・・・・いえ・・・お嬢様・・・これからは
私達がいつも一緒におります。
私達がお守りいたします。」
うやうやしくその人達はルージュの手をとった。
「・・・・今までの事を忘れ・・・・名前も、身分も捨て
お嬢様の安らげる場所に参りましょう」
何のことだかルージュには分からなかった。
分からないながらにルージュはその人達が自分の味方だと
いう事だけは分かって
嬉しげに無邪気な笑顔を向けた。
「お嬢さんの名前は?」
支えられるままルージュ達の乗った船の甲板に出て行くと、
ルージュにそう尋ねる人が居た。
ルージュは、
(・・エーフィル・・・・・私は、エーフィルだよ。)
ふと、ルージュの脳裏に優しげな誰かの声が聞こえた気がした。
「・・・・エ・・・エー・・フィル・・・?」
思いついた言葉を言った。
それが、本当の名前を名乗れなくて名乗った
シルクの仮の名前だったことなどルージュは覚えていないはずなのに、
「エーティル?」
それから、ルージュは、エーティルになった。