エピローグ
「母上」
朱金の髪を持つ壮年の美しい王が一つの白い石像の前で跪いていた。
暁の海と呼ばれたその『エーティル皇国』初代皇王、
アルバ・エクウォーレオ=モナルカ・ラトリオ・エーティル、
僅か12歳にしてみごと海の聖獣ケートスを従えて戻り、
聖獣ケートスが領主リュデクテスを認めずにアルバを領主と認めた為、
一時領地が乱れたが、先の領主の庶子(リュデクテスの異母弟)レオンの
(父と同名)娘、レオンが、アルバの正妃となった為に
一気に状勢はアルバの方に傾き
リュデクテスの領地とその周辺の島の領主としてアルバは即位した。
やがてアルバの勇名が轟き、今のエーティル大陸全土を支配する
皇王として即位し直した。
「母上、貴方は思い出していたのですか?」
母のエーティル譲りの澄んだアクアマリンの瞳で像を見上げる。
「父は、動けなくなった身体で意識だけ
貴方と私の元に飛ばして見守っていた。
身体は傍に居れなくてもずっとずっと傍に居て愛していた。
貴方は、父に会ってから・・・あの後、何も言わずに
父の看病をし続けた。
細くなってしまった父の手を握り締め
日々弱っていく、十分に口も聞けなくなってしまった父に対して
貴方は何を思っていたのですか?
父の最期を見送れて幸せだったのですか?・・・・
貴方は結局何も言わないまま逝ってしまった。」
アルバは、振り返る。
後ろには、アルバの子である
25歳の第一子 ルシア(養子<先の領主リュデクテスの息子>)
10歳の第二子 リンク(正妃レオンの娘、シアスの双子の姉)
同じく10歳の、第三子 シアス(正妃レオンの息子、リンクの双子の弟)
3歳の、第四子レクス(養子<先の領主リュデクテスの孫息子>)
生まれたばかりの、第五子 リム(側妃<先の領主リュデクテスの娘>の息子)
が居た。
「私も父の様に先は長くないでしょう
しかし、貴方にはこんなにたくさんの孫が、
そして沢山の貴方を慕う国民が出来ましたね。
どうか、彼らに幸せを、そして、守護を与えて下さい。」
アルバはもう一度見上げる
母を象った白い石像を、
戦で親を亡くした子の為の家を建て、
自身も自らの手で直接その子らに愛を与えて育て
学べない者<経済的に苦しい者や、女性にも>に
低額・・場合によっては無料で学ぶ場を与え、
病気に苦しむ者を看病し保護する場所を造り、
アルバと一緒に国を支え慈しみ海の民に愛され聖母と呼ばれた母の墓を
暁の海の王、アルバが亡くなったのはそれから数年後、
16歳になった第二子リンク皇女と、第一子ルシア皇子が婚姻したその年、
たった41年の生涯だった。