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「レオンさん」
出航後、順調に航海が進んでいた。
エーティルは、部屋の前を歩いていくレオンを見かけて
呼び止めた。
「エーティル殿?」
呼ばれたので首を傾げながらエーティルの所に来たレオンに
海を感じるアクアブルーの古布に貝やサンゴの刺繍をした
バンダナのようなものをレオンの頭にふわりと被せた。
「女の子だからもう少し髪の毛とか、
おしゃれに気を使っても良いのでは無いかしらと思って・・・
余計なお世話かも知れませんけど、船に乗せてくださったお礼に」
海のような広く、深い微笑でレオンに微笑み掛けるエーティルに
レオンは、照れから少し頬をピンクに染める。
「ありがとうございます。」
「他の船員の方達にも何か出来たら良いのですけど・・・
『何か出来る事はありませんか?』と他の方にも聞いてみたのですけど
凄い勢いで首を振って布地と針と糸を下さって
暇つぶしにどうぞって・・・」
気を遣っていただいて、親切ですね
と微笑むエーティルにレオンは驚いた。
あの強面の乱暴者達が随分エーティルの前では丸くなっている
何時の間に
と苦笑が溢れそうになった。
ただの世間知らずと言ってしまえばそうかも知れないが
この人は、自分達の大好きな海に似ているとレオンはそう思った。
「ありがとう!エーティル殿」
エーティル手作りのバンダナを片手で軽く振りながら
にっこり微笑んでレオンは、立ち去った。
「・・・・アルバ殿?」
甲板に蹲るようにしてアルバが座っていた。
レオンが恐る恐る近づくと、
アルバは固い表情をして、甲板の少し上を見つめていた。
「アルバ!」
もう一度声を掛けると驚いたようにアルバは振り向き
「・・・レオン殿・・・!」
取り繕うように微笑を浮かべたが
アルバの直ぐ横に座り込んだレオンにアルバは、驚いた顔をする。
レオンは、そのまま驚いた顔のアルバの頭に手を置いて二度三度叩く。
「・・・・お前も子ども、俺も子ども、子ども同士だったら
気兼ねしないだろう?
最近のお前の浮かない顔の訳を話せ、
そんなにお前を知ってるわけじゃないが変なのは分かるぞ
何か、悩み事か?」
「・・・・・・僕は・・・・・・」
沈黙して再び下を向いてしまったアルバを根気よくレオンは待つ。
「・・・・俺の父はな・・・実は貴族とか言うのの血をひいていたんだ」
しばらくまっても口を閉じたままのアルバに対して
急にレオンがそんな事を言ってくる。
首を傾げてレオンの顔を見るアルバに少し苦笑を浮かべるとレオンは、続ける。
「・・・・・・義賊としてこの海賊船のキャプテンになった私の父な、
お前達が乗り込んだ港がある領地の領主の家の血をひいてるんだ
腹違いの弟とか言うのらしい・・・父の母親が下賎な身とかで
父が選んだ俺の母も平民だったからって追放されたんだ」
「え・・・?」
驚いてしげしげとレオンを見るアルバににっこり微笑み掛けると
「・・・・勝手な話だろう?」
とレオンは、アルバに同意を求めた。
「・・・・不思議な縁・・・・本当にこんな偶然あるのかな・・・」
アルバはそう言うと、噛み砕くように今度は自分達に起こったこと
自分達の身元をゆっくりと語った。
島の領主に母が迫られていた事、
自分が領主が代々保護してきたという聖獣を逃がしたと
身に覚えの無い罪を着せられた事、
母と自分を守り育っててくれた者達が人質になって捕まったが
そのうちの一人の剣士が命をとして母を逃がしてくれたけれど、
まだ人質が残っている事、
その剣士が巫子王国サフラに行く事を進め
聖獣の手がかりもそこにあるらしいという事等、
それから
母は島に来る前の記憶を失っていて
誰の子か分からないアルバを生んだと言う事と、
どうやら、この船に乗っている依頼主が
父親らしいという事が分かったという事を話した。
レオンはしばらく驚いたように目をパチパチさせると
「本当になんていう縁・・・なんていう偶然
神の仕業としか考えられないな」
と言った。




