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暴走王

作者: 発足 叺

カキーン


力強く振ったバットはボールの芯を捉えた


タイミングばっちり


ボールはピッチャーの頭の上を越して2塁ベースの上を通り過ぎ、センターの前へ落ちた。


僕はゆっくりとまではいかないが一塁まで大きな弧を描いてベースを回った


さすがに定位置に落ちたため、回った段階でそのままストップした。



久々のヒットだった。


ここ最近フォームを崩し、結果が出ていなかったのでレギュラー落ちとも囁かれていた。


良かった。やっと結果が出た。


僕は笑顔を隠し、心の中で小さくガッツポーズした。





さぁ、次は9番ピッチャーだ。


ここは手堅くバントするだろう。


そう思っていたが、先生からのサインは違った


ノーサインだった。


つまり、打てという指示だった。


あれ?ノーアウト1塁で、0-0


ここは一つでもチャンスを作りたいんじゃないのか?


しかも、あいつのバッティングはっきりいって糞だぞ?


まともにバットに当たったところ見たことがない。


不思議に思ったのが投手に感づかれたのか、一球牽制を入れる。


大丈夫。俺は盗塁しないって。


なんせ、俺はそこまで俊足じゃない。


遅くはないけど、ここで勝手に走ってアウトになるのだけは避けたいからな


牽制球を見て投手は察したのか、今度はホームベースに投げる。


ストライク。


豪快な空振りだった。


バットとボールが10cmははなれてたんじゃないのか?


こりゃダメだ。打てそうにない。







ゆっくりと一塁ベースに戻った直後、ベンチから罵声が飛んできた



「お前何突っ立ってんだよ。走れよ早く。」


え・・・


いやいやいやいや


サイン出してないよね?


間違いなくノーサインだったよ


盗塁のキーサインに手も触れちゃいない


嘘でしょ


これ無理でしょ


絶対に走れないよ


だって相手の投手に丸聞こえじゃん


捕手なんか肩ぶん回して態勢万全見たいな構えしてんじゃ・・・

うわっ


いきなり牽制球投げてきた


ギリギリだったので頭からヘッドスライディングで戻った


判定はセーフ


危なかった


完全に警戒態勢じゃん


これ無理ゲーでしょ


リードをさっきより一歩小さめに取った。


これなら走らないと相手に気づかせてくれるはず。


投手の膝がまたこっちに向いた


僕は少々逆を突かれ、慌てて戻る。


しかしボールは高めに浮いた。


タイミングはほぼアウトだった。


助かった。


しかしベンチからは


「何してんだよ。危ねぇな。しっかりしろよ」


こうなったのはあんたのせいだけどな


泥だらけになったユニフォームのベルトの土を落とし、またリードする。


今度はリードを戻したが、また牽制球。


さすがに今回は頭から戻ったがふつうにセーフ


もう何回目だよ


もう疲れた


助けてくれー


僕は早く死にたいんだ


戦場の兵士の如く華麗に散らせてくれよぉ







そんな願いも通じずまた牽制球を放る。


涙が出てきた。


僕は一体いつまで公開処刑を見せられなきゃいけないんだ


これじゃ晒し者じゃないか


早く 早くホームへ


投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ投げろ


僕の願いは通じたのか、バッテリーが観念したのか、ホームベースに向けて投げ込んだ。


僕は投手の膝が上がった瞬間にスタートを切った。


僕は全力で走った。


ホームベースは一切見てなかった。


僕の目にはセカンドベースただそれだけだった。


ショートが捕球態勢に入っている。


まずい このままじゃアウトだ。


僕は渾身のヘッドスライディングで滑り込んだ。


判定は?


どうなった?


2塁審判のほうへ顔を向け確認する。


しかし、審判はどちらのコールも出さなかった。


あれ?どうなったの?


僕は2塁ベース上に立ち上がり辺りを見渡す


するととんでもない光景を目にした。


ピッチャーはマウンド上で蹲っている。


ほかの選手も心配そうな目でマウンドを見つめている。


ボールはピッチャーの前に転がっていた。


自軍のベンチからはナイスランの声がかかっていたが、何か険しそうな顔をしていた。


一体何が起こった?


そういえば、走ってる時、なんかゴツっという音が聞こえたような・・・


そうだ


これはあれだ。


キャッチャーの投げたボールは投手に直撃したんだ。


うわっ、痛そう・・


何してるんだがとキャッチャーに心の中で毒を吐いたが、内心ホッとした部分はあった。


何はともあれ、一応成功したんだ。


安堵の表情を見て僕は先生のサインを確認する


その直後僕の顔が硬直する


出されたサインは















盗塁














いやだよぉぉぉぉぉぉ


もう十分だろぉぉぉぉぉ


絶対にアウトになるよぉぉぉ


なんでバントさせないの


チャンスを潰したいの?この監督はぁ


殺意が湧いた


後で先生に言ってやる


この糞監督がぁぁぁと


さすがに2塁のため、バッテリーは警戒心が薄くなっていた。


ホームを見るのが早い


第2リードを大きくとり、ピッチャーがなげる前にスタートを切った


完璧なスタートだった


3塁ベースな向けて全力疾走する


サードはキャッチャーからのボールを待っていた


大丈夫


楽勝セーフだ。


と思った矢先、思わぬ事態が発生する。


なんとキャッチャーの送球が思いっきりそれたのだ。


サードは後逸し、ボールは後ろへ転々ところがる。


それを見たサードコーチャーが大声でゴーゴーと叫ぶ


それを見てホームに突進する。


バテバテだったが、ホームコーチャーは両手を上に上げていた。


ノースライ ノースライ


それを見た僕はそのまま駆け抜けてホームを踏んだ。









僅か2球


ヒットを打たれるわけでもなくいとも簡単に1点が手に入った。


しかし、僕の顔は喜んでいない。


先生に対する殺意で一杯だった。


何を言ってやろうかと思った時、監督から声を掛けられる。


「これでわかったか?お前に必要な事は。」


「なんですか?」


「はぁ、まだわからないのかよ。いいか?お前に足りないのは積極性だ。お前は全てにおいて慎重になり過ぎて型に当てはまるところがある。でも野球はそれだけじゃない。積極性は非常に大事なんだ。少しでも次の塁を狙え。そうすればお前はもっといい選手になれるんだから。いいな?」


「・・・・」


「返事は!」


「はい」


「よし、ならokだ いいぞ」


予想外の答えだった


確かに俺に足りないのは積極性


つまり、先生はいつでも俺のこと見てくれていたんだな


次の塁へ狙う姿勢


これはすごく大事なことだな


次も出たら盗塁を仕掛けようかな










こうして、その後はランナーが出たら全て初球から走った


バントのサインが出ようが牽制を多く投げさせられようが、必ず初球から走った。


先生からバカヤローと怒鳴られたこともなんどもあった。


こうして俺についたあだ名は


「暴走王」


なんかかっちょええな


僕は高校に入ってもそのスタイルは継続した。


監督からは積極的だなと試合で結構使ってくれた










大会前の最後の練習試合


僕はヒットで1塁にいた


今回も初球から走るぞ


その初球


完璧なスタートだった。


これはセーフだろ


キャッチャーを見た。


しかし、思わぬ方向からボールが飛んできた


あれ?なんで背中からボールが飛んでくるの?


2塁ベース上にいたショートはゆっくりと僕にタッチをする


アウト


僕はゆっくりとベンチに帰っていった。


次の試合、僕はスタメンから外れた。

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