1 冒険者たる者厳しい試練を乗り越えて
俺は毎日の日課の如く、冒険者ギルドへと向かう、小さな幼女を連れて。
冒険者ギルドにいる奴らというのは、イメージ通り碌な奴がいない。
冒険者というのは、自らの命を担保にして生きる為の金を稼ぐ職業である。
不安定で命懸けで怪我の手当ても出ないような、元の世界では考えられないような職種である。
しかし、冒険者という職業はこの異世界では大変人気な職業らしい。
俺には到底理解が出来ないのだが、元の世界におけるスポーツ選手的な夢のある職業だと思っていただけるとありがたい。
貧乏な人達は冒険者で一山当ててやろうとギルドのある街まで出稼ぎにくる。
しかし、冒険者をしている人達は貧乏人ばかりかと言われればそういう訳でもない、貴族の嗜みとして魔獣退治をしたり、騎士が冒険者ギルドへ登録していることも多々あるらしい。
食っていけるかは別として、誰でもなれる職業なのである。
異世界というのはこれぞ中世ファンタジーといった雰囲気で、男女差別は余りない。
女だからと言って力がない訳でもないのだ。ここら辺の事は魔法やら剣技やら何やらが関わっているのではないかと睨んでいる。
俺はいつも通りにベンチに腰掛ける、もはや日常である。
黒髪長髪に紅い瞳をした幼女がこちらをみてこう言った。
「また今日も訓練か、鬼教官がうざくなったら話、妾に言うのじゃぞ。そしたら肉片もない程に切り刻んでやるぞ」
彼女なら本気でやりそうで怖い。
しかし、彼女の言う通り、鬼教官による訓練がもうすぐ始まろうとしている。
「おい、タツヤ!約束通り、訓練を始めるぞ。」
約束を自分で結んでおいてからいうのも何だが、訓練は厳しすぎる。
この世界に来るまで、部活動やクラブ活動には全く縁の無かった輩が、朝から晩までの辛いスパルタ訓練を受けなければならないのだ。
通常の初心者冒険者は、朝から昼までの特訓なのだが、俺だけ晩までの特訓である。
初心者冒険者育成計画とやらが始動して五年になるらしい。
初心者冒険者育成計画というのは、初心者冒険者に一週間のスパルタ訓練を義務付ける計画の事である。
初心者というより見習いといった感じだ。
この訓練中はクエストを受ける事が出来ない代わりに、給料が出て、B級以上の冒険者から冒険者のイロハを学ぶ事が出来るというありがたい訓練だ。
俺は、教官から些か気に入られている様にも見える。
そのせいか、自由なはずの午後までもが奪われてしまった。
俺は、鍛冶屋で売っていた初心者セットについていた片手剣を棚に置き、訓練用の木剣に取り替える。
「では、始めるぞ!」
「「「よろしくお願いします!」」」
「声が小さいッ!!!」
何なんだこの茶番はと思いつつも従わざるを得ない。始めの挨拶を終えると右隣から声がかかる。
「よお、タツヤ。今日もおめぇに勝ってやんよぉ」
俺の右隣には力自慢のマッチョな男が立っている。
彼の名前はゴグリという名前で、彼の生まれ育った村の中では中々の強者だったらしく、彼の肉体を中々のものである。
俺と同時期に訓練を受け、初めは喧嘩を売られたが、今ではそこそこの仲である。
ゴグリは、元々冒険者だった父の背中を追って冒険者になったらしい。
因みに俺が冒険者になったのは、冒険者ギルドに所属すれば身分を貰えるからである。
そんな簡単に身分を与えて良いのかという疑問もあるが、盗賊や裏社会に成られるよりも冒険者として街を守る肉壁になってほしいというのがこの国の考えなのであろう。
余談が長くなってしまったようなので、そろそろ本題に入ろう。
ゴグリという男が、田舎のヤンキーの様なチンピラが改心した理由である。
ゴグリは訓練始まって当初こそ、俺やその他の冒険者見習いに喧嘩を売ったり、偉そうな態度を取っていた。
しかし、やはり調子に乗り過ぎるのは良くないというもので、彼は一つやってはならない事をしてしまったのである。
我らが教官、マシュアロ=グラッセ。
とても美しく、暗い藍色長髪は後ろで一つに束ねられており、若干赤色のかかった瞳は美しい。
体は細身だが、美しい。
しかし、そんな美貌をもつ彼女に声をかける輩は、冒険者ギルドにもいない。
彼女の通り名は、龍殺しの鬼姫。
二十歳にして、森の主と呼ばれるドラゴンを殺したらしい。
詳しくは知らないがソロで龍を殺したのだろう。
彼女が誰かとパーティーを組むとは考えにくい。二十三歳と異世界では結婚してもおかしくない年齢だが、男の気配がまるでない。
彼女にナンパしようとした男は突然殴られ、半殺しにされるという噂はギルドでは有名だ。
彼女マシュアロ=グラッセは、この街唯一のAランク冒険者なのだ。
この街でグラッセに勝てるやつなど、一人の幼女を除いて他にいないだろう。
しかし、ゴグリはそんな事を知る由もないが為に、虎の尾を踏んでしまったのだ。
ゴグリはグラッセに反抗し、一方的にボコボコにされたのである。
あの時は流石にゴグリに同情した。
反抗といっても、若干舐め腐った態度をとっていただけである。流石にやり過ぎだと思ったが、文句など言えなかった。
冒険者訓練も本日で最終日。
全く喜ばしいことである。
「では、まず訓練を始める。決闘場周り六十周だ。遅かったやつには罰を与える。」
「「「ハッ」」」
皆、真剣な目をしている。罰が怖いのだ。実戦訓練というなの虐待が怖いのだ。
俺の隣にいた幼女の体は浮き、俺の肩に幼女は座る。
「よし、進むのじゃ。」
「お前自分で走れよ」
この幼女は、グラッセからは何の注意も受けない。
これは、俺がなぜ冒険者になりたいかを聞かれた際、この幼女のことをとても重い過去の有る子であり、訳あって俺が預かっているなどと適当な弁解をしたからだと思われる。
まあ、一応のことを言えばその言い訳は事実とも捉えることは出来なくもない。
俺たちは六十周のランニングを終える。
このランニングはウォーミングアップの様なものでしかないといがとても辛い。
「タツヤがビリか…、まあ始めよりは早くなったな。
よし、では、最終日ということなので、全員で実践特訓を行う。」
「「「えー」」」
最悪だ。半殺しにされる。
皆、実践特訓の恐怖が目に焼き付いているのだ。
そして、グラッセの呼び声と共に、冒険者特訓を一緒受けている男が前に出る。
冒険者見習いの男は剣を降る、しかしその攻撃はするりと躱され、グラッセの剣技が炸裂する。
そうして、また一人、また一人と生きる屍が増えてゆく。
そして、ゴグリの番がきた。
「俺だってやられてばかりじゃあいられねぇんだ。村一番の俺が、あいつに一矢報いてやるよぉ」
「ふっ、期待しているぞ。」
ゴグリは、訓練の中では一番実力を発揮していた。それ故に、ゴグリに皆期待する。
しかし、そんな期待も一瞬、ゴグリまでも生きる屍となってしまった。
「次、シェリーネ・レイムド・カットアロート」
「は?」
シュリーネ・レイムド・カットアロート
黒髪幼女の名前である。
幼女にして、魔王。いろいろあって俺と旅している。
彼女は俺の使い魔である。
主人よりも強く、2000年前の大厄災をもたらした伝説の魔王。
魔王の伝説は、今なお受け継がれている。
いくらA級と言えども、魔王の足元にすら及ばないのだ。
「ほほう、妾に決闘を挑むとは、お主も命知らずじゃな。命知らずの愚か者と言うのは、存外嫌いではないぞ。」
この場にいる者は魔王だとは思いもしていないだろう。勿論、グラッセも。
「すまんな、タツヤ。流石に、訓練に参加せず、ましては偉そうにしている奴に腹が立ってな。
私とて大人だ、殺しはしない。安心しろ。」
「て、手加減お願いします。」
俺はそう言った。グラッセではなく、俺の使い魔であるロリ魔王に。