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エピローグ 逆転する運命

「居眠り運転のトラックが―――――」

「――――――もしかしたら死んでたかもしれない」

………………どこからか話し声が聞こえる。

眠りのまどろみの中、ぼんやりした頭。

「頭を打ったくらいで、大きなケガはなく――――――」

「事故のショックで意識を――――――」

誰かの話し声が聞こえる。

ゆっくりと目を開ける。

ぼやけた視界。細長い三本の白い光。

蛍光灯の光がやけに眩しくて目を細める。

僕はベッドの上で横になっていた。


「勇治?」

女の子の声がする。

僕の様子に気がついたのか、少女が声をかける。

視界はまだぼやけていて、顔はよく見えない。

「う……、あ…………」

声を出そうとするが、渇いた喉からはうめき声が出ただけだった。

「勇治、大丈夫か!」

「先生! 勇治が、勇治が目を覚ましました!」

今度は男と女の声がする。

僕は唾を飲み込み、ゆっくりと声を出す。

「……ここ、は?」

「ここは病院です。あなたはトラックにはねられてここに運ばれたのですよ」

落ち着いた渋い男の声がした。

病院……?

トラック……?


僕は起き上がろうとすると、ベッドが自動的に上半身を起こしてくれる。

どうやら電動のリクライニングベッドらしい。誰かが操作してくれたのだろう。

体を起こしてようやく周りを見ることができた。視界も徐々に安定してきている。


僕のベッドの周りには四人の人間が立っていた。

白衣を着た男、中年の男女、そして学生服を着た少女の四人だ。

白衣を着た男は、胸ポケットに名札を付けている。おそらく医者なのだろう。

中年の男女は安心したような表情を浮かべていた。

学生服、ブレザーにスカートを着た少女はさっきまで泣いていたのか目を赤く腫らしている。

「まったく、勇治、心配させんなよな」

少女は涙混じりの声で、容姿に似合わない男言葉を話す。


意識がまだぼんやりしている、脳がしっかりと働かない。

僕は頭の中で浮かんだ疑問が思わず口をついて出た。

「あななたち、……誰ですか?」

空気が一瞬にして凍りついた気がした。


「な、何を言ってるんだ!? 勇治!」

中年の男が驚いたような声を出す。

「ちょっと、あなた! 勇治は事故に遭って目が覚めたばっかりなのよ!」

中年の女が男に注意をする。


……事故?

一体何が……?

今までのことを思い出そうとするが、何も出てこない。

あれ?

……あれ?

…………あれあれあれ?

僕は、俺は、自分は、誰だったけ?


ぽろぽろと自分の中から大事な物が零れていくのを感じた。

頭の中、大事なものが浮かんでは自分の中から零れていく。

それは自分の身に覚えのない記憶。


どうか世界を救ってください。


魔王――多くの強者が彼に挑み敗れてきた。


魔王の器に罪深き魂を与えることで魔王は復活する。彼は前世で人間不審に陥り、自殺という罪を犯した人間でした。


勇者――なんで僕が選ばれたんだ!?


あなたにしか魔王を倒せないからです。


“女神の加護”――――その魂に宿る肉体はあらゆる災厄を寄せ付けない。


自殺は防げません。いえ、正しくは自分からの攻撃は防げない。


ドッペルゲンガー――――もう一人の自分。


誰かの記憶の断片が浮かんでは零れていく。


自分は、僕は、俺は、一体誰だ?

突然、得体のしれない恐怖の感情がわき上がってくる。

背中から冷たいものが這い上がり、寒くもないのに体が震えだす。

大事なものが零れていく、零れていく、零れていく。


「ああああああああああああ!」

声が口から溢れる。

俺の声だった。

自分が誰かもわからず、自分がどこにいるのかわからない。

恐怖に耐えきれず、叫び声を上げた。

「誰だ! お前ら誰だよ! ここは一体どこだよ!」

中年の男女は突然のことに動けず、少女はショックを受けたようにぼんやりと立っていた。

医者だけが僕の肩を強くゆする。

「落ち着いて! 落ち着いてください、勇治さん! 北斗勇治さん!」


――勇治、元の世界へ戻ってもどうか健やかに


――苦しいことも、辛いこともあるでしょう。でもどうかあなたなら乗り越えられると信じています


――勇治、あなたは生きてください


パニックに陥っている俺の耳に声が聞こえた気がした。


――きっと運命は変えられるから


     完



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