第二話「ルーデルの後席へ」
着艦するや否や、俺とルーデルは艦長室へと連行され、延々と航空士官の怒鳴り声を聞かされる羽目になった。
「全く、貴様というやつは、なぜそうも落ち着きが無いんだ!ルーデル少尉、貴様が空軍にいた頃毎日のように居残りを食らっていたのは承知しているし、その反動から出撃できないのが辛いのも分かっている。だがな、規則は絶対だ!貴様は命令もなしに無断で出撃した、それも整備中の機体を半ば強奪した上に甲板作業員を脅すような形で、だ!貴様がしたことがどれほど重大な軍規違反であるか、貴様に自覚はあるのか!?」
怒りをあらわにして怒鳴りつける航空士官。対するルーデルは嫌味なほどに冷静な態度で応対している。
「は!自覚しております!」
その命令違反者にしてはやけに規律正しい態度が、航空士官の怒りに油を注いだ。
「自覚があっても反省が無ければ意味がないだろうが!今までは貴様の優秀な飛行実績に免じて見逃してやっていたが、これ以上は我慢ならん!今すぐにでも貴様を営倉送りにした上で飛行士免許を剥奪し、さらには永久に国外へ放逐してだな...」
「まあまあ、その辺にしてやりたまえヘッケル君」
怒りが収まらないといった様子の航空士官を艦長がなだめる。航空士官とは違って、おおらかな性格のようだ。
「しかしですな艦長、この男は今月に入ってもう3度も無断で出撃し、その上前回の出撃では後方機銃手を人事不省に陥らせたんですよ!?本来なら除隊処分されていてもおかしくない程で......」
なんと、彼の後方機銃手は人事不省になっていたのか...だとすると、一体どんな無茶な飛び方をしたのやら......想像するのも恐ろしい..
「あのねえ...彼を除隊するのは簡単だよ?ただ、彼のように優秀なパイロットを育てるには何分時間がかかり過ぎる。少なくとも6年、彼を除隊してその変わりとなるパイロットが育成されるまでにかかるんだ。いいじゃないか、一応戦果をあげているんだし。今回ばかりはこの私の顔に免じて、許してやってくれたまえ」
艦長が柔和な笑みを浮かべて航空士官に言った。
「......わかりました...命拾いしたなルーデル少尉。艦長の寛大な心に感謝することだ......ところで..」
航空士官の顔がこちらを向く。明らかに不審人物を見るような目だ。
「貴様が連れて来たこの男はなんだ?見たところ、我々と同じ『解放軍』の士官のようだが...」
「はっ、彼は第七派遣小隊の最上定少尉です。敵の攻撃機に襲われていたところを、私が助けました」
「敵から救った...というところまでは分かった...だがなぁ!連れてきてどーする!傭兵なんぞをこの艦に連れてきて、一体何がしたいんだ貴様は!」
航空士官が俺とルーデルの両方に避難の眼差しを浴びせてくる。
だがルーデルはなんの物怖じもせず、率直にこう言った。
「彼を連れてきたのは、前回の出撃で人事不省に陥ったロースマンの代わりに後方機銃手を任せようと思ったからです!」
「え?!」
「なんだと!?」
俺も航空士官も、多いに驚かされた。俺としてはこの男の言っていることが信じられなかった。俺は後方機銃手なんてやったこともないし、飛行経験も今回ルーデルの機に乗せられたのが始めてだ。そんな俺を後方機銃手にしようなど、おおよそ正気とは思えなかった。それに後方機銃手を人事不省に陥らせるようなパイロットの機など、まっぴらごめんだ。
「気でも狂ったか!一介の傭兵に過ぎないこの男を、後方機銃手にしたところでどうなるというんだ!そもそもこの男には機銃手の経験なぞないだろうに!」
「確かにその通りです。しかし、この男にはガッツがあります。この男はたった一人で孤立した状況にあっても、勇敢にパンツァーファウストを片手にヤーボと戦っておりました!その勇気を買って、この男を後方機銃手にしようと言っているのであります!」
ルーデルの瞳が航空士官をまっすぐに見据えた。航空士官はたじろいだ。
「しかし...本当に使いものになるのか?」
「少なくとも、ロースマンよりは」
...ルーデルは本気で言っているのだろうか?彼は俺を勇気ある男と言ったが...それはいくらなんでも買い被りすぎではなかろうか?
だが、航空士官は彼の力説の圧されたらしく、彼の申し出を承諾してしまった。
「いいだろう...その男が、貴様の無茶苦茶な操縦にどこまで耐えられるか見ものだ...先週戦死したマイヤー大尉の部屋を貸してやれ、一応は士官だからな......」
「はっ!ありがとうございます!」
「もういい、下がってよし!」
「はっ!」
ルーデルは敬礼をして回れ右をすると、部屋を後にした。
俺はと言えば、未だその場に立ち尽くしたままだった。
ルーデルはドアの前でそれに気づき、友人と接するように気さくに声を掛けてきた。
「行くぞ相棒!さっさと来い!」
...参った、どうにも、俺はこの男に気に入られたらしい。先のことを考えると頭が痛むが...また空を飛べると思うと、ルーデルの後方機銃手も悪くわないか、と思った。
少なくとも、ヤーボに追い回され、一人孤独に戦うことにはならなそうだ......
To be continued......