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サイレンが響く  作者: トーポリ
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第一話「グラーフ.ツェッペリン」

第一話「グラーフ.ツェッペリン」


人生で初めて乗った飛行機の乗り心地は最高とも言えた。機内は身動きが難しいほどに狭いが、眼下に広がる広大な大洋を眺めていれば、そんなことは気にならない。

ただ不満があるとすれば、自分が機の進行方向に対して後ろ向きに座らされていて、この機を操縦しているのが自分ではないことだ。

俺は今、自分の命を救った男であるルーデル少尉の後席に座っている。通常なら後部機銃手が座っているはずだが、どういう訳かこの男の機には後部機銃手が乗っていない。それにスツーカは基本的に5機一組の編隊を組んで行動するはずだ。なのにルーデルは単騎で、それもまだ敵のヤーボが飛んでいるような空域を飛行していた。

......とんでもない奴の機に乗ってしまったかもしれない...このまま無事に目的地までたどり着ければいいのだが...

ふと、この機がどこに向かっているのか気になった。ルーデルに言われるまま、後部座席に乗り込んだはいいものの、一体この機が何処へ向かっているのか聞いていなかった。

コクピットのルーデルに聞いてみた。

「なあ、この機は何処へ向かってるんだ?」

「グラーフ.ツェッペリン!この先の海域で待機してるはずだ」

「グラーフ.ツェッペリンだって?ゲルマニア公国海軍の航空母艦か」

噂には聞いていた。

解放軍の一員として、欧州において共和国軍と交戦しているゲルマニア交戦の海軍が、航空機の運用が可能な航空母艦を建造した。それがグラーフ.ツェッペリンだ。だが、俺が聞いた話ではあれはまだ建造途中だったのではなかったか?

「......もう完成してたのか...」

「先月になってようやくだ。おかげで陸で待機命令ばかり食らってた俺も、急遽海軍の航空隊に編入されたんだ!長いこと待ってたがついに出撃できたって訳だ」

そう語るルーデルの声は活力に満ちていた。後ろ向きに座っているこっちからはその顔を見ることができなかったが、おそらく初めて出会ったときと同じように屈託のない笑顔を浮かべているのだと、不思議とわかった。

...そんなルーデルが羨ましく思えた。彼は栄光あるスツーカ乗りで、自分は彼と同じパイロットになり損ね、今や薄汚れた傭兵だ。

俺がこれからどうなるのかは分からないが、少なくともルーデルの顔を直視することはできそうもない......なんにせよ俺は傭兵で、いずれは誰にも知られずに、この欧州に横たわる数ある屍の一つになるんだ...彼に助けられたところで結局、俺の人生にはなんら変わりはないんだろう......

そんな暗い思考をルーデルの声が吹き飛ばした。

「見えたぞ!あれが我が軍が誇る空母『グラーフ.ツェッペリン』だ!」

体をひねって前方を見た。

航空母艦...写真でしか見たことは無いが、平べったくて広い甲板が実に特徴的なのですぐにそれと分かった。右舷側に突き出た艦橋のマストにはゲルマニア公国軍所属を表す鉤十字の旗が掲げられていた。

「あれに降りるのか?滑走距離が短すぎるように思うんだが...」

「問題ない。甲板上に張られたワイヤーをこいつのフックで引っ掛けて着艦するんだ。ちと衝撃が大きいから注意しろよ」

そう言うとルーデルは徐々に高度を下げ始めた。そして無線でグラーフ.ツェッペリン側と交信をした。たぶん着艦の準備なんだろう。

そして着艦が可能な高度まで降りた時、ルーデルが奇妙なことを聞いてきた。

「なあ、お前は怒鳴られたりするのは得意か?」

「何?」

「怒鳴られたり、がなりたてられるのは得意かと聞いてるんだ」

「...まあ得意といえば得意だ......なぜそんなことを...」

「いや、いいんだ...なんでもない。それより、着艦するから口を閉じとけ。舌を噛まないようにな」

直後、スツーカの尾部にとりつけられたフックが甲板上に張られたワイヤーを捉え、機体が一気に減速し、甲板に叩きつけられた。その衝撃で機内が揺れた。

「...ッ!」

「着艦は何度もやってるが、どうも慣れなくてな。まるで不時着でもしてるようだよ」

ルーデルはヘルメットを外しばがらそう言った。

しかし、機が停止しているにも関わらず、ルーデルは一向に機から降りようとはしない。

「何をしてるんだ?降りないのか?」

「ここで待ってないといかん。もうじき出てくるはずなんだが...」

「?」

「ほら、お出ましだ」

ルーデルが艦橋の方を指差す。

その方向から、いかにも海軍軍人らしい男が歩いて来る。

「あれは?」

「鬼の航空士官どのさ。俺が戻ってきたと聞いてやってきたんだろう」

「なんだって?お前、一体何をしでかしたんだ?」

俺がそう聞くとルーデルはニヤリと笑ってこう答えた。

「なに...ちょいとばかし無断出撃を...な」

...どうやら俺の直感は正しかったらしい......この男は、間違いなくとんでもない奴だった.........


To be continued...


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